自転車トラック競技中長距離種目の元ナショナルチームメンバー、吉川美穂。養成所をトップ成績で卒業し、2021年にデビュー、2023年の今年は早くもガールズグランプリの出場権を手に入れた。
スターダムへ駆け上がっているように見える吉川は、自身の戦法を「心の弱さが出ている、でもそれも勝ちたい気持ちが強いからこそ」と語る。
いざ、初のガールズグランプリへ。吉川美穂の過去と現在、そしてこれからを掘り下げるインタビュー。
プロフィール
1993年生まれ、和歌山120期。競輪選手養成所入所前は自転車トラック競技のナショナルチームメンバーとして活動し、チームパシュートなど中長距離種目に出場してきた。
2023年は3月にベトナムのロードレースに出場するなど異色の活動を交えつつも、7月のガールズケイリンフェスティバル2位、10月のオールガールズクラシック2位、通算100勝を記録。初のガールズグランプリへ挑む。
中長距離からガールズケイリンへ
Q:競輪のレース、短距離の世界には慣れましたか?
短距離の世界に慣れたかはわかりませんが、今のガールズケイリンの競走にはだいぶ慣れました。
Q:中長距離・ロードの選手から競輪に入って、活きている点はありますか?
人が密集してても怖くないとか、体が当たってもそんなにブレないとか、そういうのはあると思います。オールガールズの決勝のような「隙間にスッと入る判断」はロードでゴールスプリントをしていたお陰かなと思います。
Q:確かに20人30人の密集に比べれば、という感じですよね。
ゴールスプリントは肩ぶつかりながら行きますからね。ハンドルが絡まったら終わりですが、多少気をつけていれば滅多にあることではありませんし。
Q:現在ロードをやっている高校生などに、将来の選択肢として競輪はお勧めできますか?
ガチガチのロード選手にはできないですね。クライマーとか……でも集団でゴールスプリントができるような人には勧められると思います。ロードのピュアスプリンターにはとても良いと思いますね。
Q:競輪選手になってから、人生変わりましたか?
今までの10倍くらい稼いでますから、生活は確実に楽になります。
今の生活に不自由はないですし、競輪に絞って良かったなと思います。そもそも「何するにもみんなで一緒」なのが(ナショナルチームで)苦手だったのかもしれません。個人で動ける競輪が楽ではあります。
Q:競輪選手として2年半ほどやってきて、競輪は自分に向いてると思いますか?
思います。やっぱり個人戦なのが良いのかな。
「気づいたら良い位置にいる」
Q:今の吉川選手の強みとは?
よく言われるのは「気づいたら良い位置にいる」ですね。でも自分でもどうやってるかよくわからないんです。
Q:何か自分の中でのセオリー、決めパターンなどはあるんでしょうか?
基本、自分より強い人もしくは同等の脚力を持つ人より前にいます。「基本」であって「絶対」ではないですが。その人に合わせられるなら合わせますし、飛びつくなら飛びつくし。
例えば佐藤水菜選手の後ろについて差せるかと言ったら、難しいです。2着止まりになってしまう。サトミナがジャン(残り1周半)から全力で先行して、その後ろについていたらもしかしたら……って感じですけれど、まあそんなことはありませんから。サトミナに勝つ方法があるとすれば、自分が前にいるしかないと思っています。
Q:ロードも中長距離もやっていましたから、踏める距離は他の人より長いと思います。でも「いかにもそういうレース」はされませんよね。
実は私、そんなに踏める距離長くないんです(笑)踏み始めたら一瞬。アドレナリンで最初にバーっと行っちゃうので、後半ガス欠になります。
「残り1周」から踏むためには
Q:競輪祭の決勝も同じセオリーでしたか?
競輪祭の決勝はかかりも良くなかったし……けど調子が良い時なら、1コーナーくらいから踏んでまくりっていうのもやれています。パールカップ(6月)から数ヶ月間はそれができていましたね。
でもやっぱり、調子が良い時だけ。自信がないとなかなかでいない走り方です。調子が良かったとしても「1コーナーからやっと動く」という心の弱さですし……
Q:逆に心の弱さを克服できれば、残り1周から踏み始められるかもしれない?
勝ちたい気持ちがすっごく強いのだと思います。残り1周やその少し前から行ったらまくられて差されるんじゃないかと思ってしまう。ズブズブに着外まで行っちゃう……ってイメージがあって、なかなかできません。どうしてもちょっと待ってしまいますね。バック(残り半周を先頭で通過すること)を取らないまくりばかりしていました。
Q:では自信をつけるために何かやっていることはありますか?
和歌山の男子選手と練習している中で、調子が良ければ後ろをついていけることもあります。「こんなに強い選手についていけてるんだから、自分も強いな」とは思うのですが……でもそれが「行く自信」には繋がらないんですよね。不思議なんですけれど。
55点56点くらいの人を相手にするとき、絶対にその人を後ろにつけたくない。でも50点とか51点の人が対抗だったときも、後ろにつけたくないんですよ。
※平均競走得点 直近4ヶ月(競輪祭時点)の参考値:
吉川美穂:57.00
児玉碧衣:57.21
佐藤水菜:62.28
なんて言ったらいいのかな……皆思い切り先行しますけど、それができないんですよね。
だからこそ余計負けたくない
Q:「負けたくない」の気持ちが強いからこそだと思いますが、それは競輪選手になる以前から?
そうですね。競技のチームパシュートの時は団体競技なので、自分1人じゃどうしようもできない部分がありましたし、自分が足を引っ張る事も沢山あってうまくいかない事もよくありました。
一方で競輪は「全部自分」。もし誰かに蓋されて自分が沈んだとしても、それは自分の対応の結果です。だからこそ余計、負けたくないですよね。
本当に「悪いのは全部自分」です。脚がないにしても、展開が悪いにしても、全部自分の責任。デビューしてすぐのころ、後ろから差されて負けたことが何度かありました。もちろん勝った時もあって、それらを自己分析した結果が今の走り方になっています。「こうした方が勝てる、勝ちやすい」と判断したつもりです。
Q:競輪は走っていて楽しいですか?
楽しくないです(笑)!優勝したときも「やったー!」よりも、ホッとする感じが強いです。普通開催なら1番人気になるようになって、発走機で緊張して……みんなには「緊張してへんやろ」って言われますけど緊張してるんです。そして勝ったらホッとして、負けたら死ぬほど落ち込みます。
Q:オッズも気にしちゃう?
いえ、オッズはそんなに気にしていません。ただ負けることが嫌なんです。普通開催とはいえ決勝で勝たれへんかった時には、死ぬほど落ち込んでから「どうしたらよかったのかなあ……」と映像見ながらの振り返りです。勝ってもホッとするだけなので、楽しくないです。
2023年のレースを振り返る
サマーナイトフェスティバル(7月)、そしてオールガールズ(10月)の決勝2着は嬉しさ半分・悔しさ半分という感じでした。サマーナイトはもっと早く踏み込めたら良かったなと思うし、オールガールズに関しては(久米)詩ちゃんの内側に差し込みかけて失速したのが後悔ポイントです。両方とも悔しいは悔しいけれど「よくやったな」とも思います。
競輪祭に関しては決勝に乗れただけで……という感じです。
競輪祭でパッと後ろを見た時「めちゃめちゃ車間開いてる!」って思いました。でも映像見たら自分が思ってたより開いてないんですよね。感覚では10車身くらいあると思っちゃって「これだけ開いてたら……」と思って行った結果、案の定でした。実際そこまで開いていなかったこと、コンディションが悪くてかかりが悪かったこと。一か八かでした。
Q:見ていて面白いレースではありました。
サトミナが誘導員の後ろを取った時、7番手の私がチャンスを得るためには(太田)りゆちゃんの後ろでもダメだと思ったんですよね。自分が浮いてそのまま後退していく未来が見えました。
ジャン(残り1周半)で行くしかなくて、あのまま連なってお見合いが始まってくれたらまた展開が違ったかもしれませんが……
Q:ガールズG1がスタートして「このタイトルだけは獲りたい」というものはありますか?
欲はありますが「このタイトルを」というものはないですね。獲れるんだったらなんでもです。