優勝にこそ価値のあるレース

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一体感を模索中

Q:航続距離を伸ばすような練習もされているのでしょうか?

はい。でも航続距離だけでなくスピードも何もかも、全部です。

Q:以前のインタビューではそういった数値が上がってきているというお話も伺いました。最近はいかがですか?

今年はそんなにピンとくる数字は出ていないです。乗り方を変えて、それが2月〜3月あたりにハマったような感じはあります。でも4月くらいから再びわからなくなってきて……それをここまで引きずってる感じです。良いとは言えない感じが続いたかなと思います。セッティングというより体ですね。2月3月の感じを覚えているので、当時と比較すると物足りなく感じます。

Q:自転車との一体感がない感じでしょうか?

そうですね。2月3月は自分の力がしっかり出せている感覚だったのですが、今は力が逃げているような感じです。

Q:それは、どのような理由で発生するものなんでしょうか?

年齢を重ねると関節や筋肉がちょっと硬くなります。またしっかりトレーニングをする中で感触を求めるのって難しいところがあって、筋肉痛で体を思うように動かせない中でトレーニングをしなくてはならないこともある。そういう中で一体感がなくなってしまうのですが、でもトレーニングをやめてしまうと一体感が出てもそもそもの力がなくなってしまいます。

だからバランスが難しいですよね。一体感を求めつつ、筋肉痛が出るくらい追い込みながらのトレーニングをして、筋肉を作っていく必要があります。精度を上げていくというのはとても難しい作業だなと思います。

Q:2023年、「このタイトルは絶対に獲りたい」といったターゲット設定、トレーニングのピーキングなどはしていましたか?

ターゲットは日本選手権(ダービー)でした。しっかり仕上げていったつもりでしたが、準決勝では脇本さんが強すぎて勝負になっていませんでした。ものすごかったです。

Q:ピークを持っていった日本選手権ではタイトルを逃しましたが(決勝5着)、今年は年間で3タイトルを獲得しています。ここ数年同じ時期にインタビューをさせていただいていますが、どんどん完成していっている印象を受けます。

どうでしょうね……年々精度は上がっていると思います。でもどんどん新しい世代の選手が出てきますし、そういった彼らに比べると落ちるなと感じる部分もあります。でもそこを追い求めていかないと置いていかれる……難しいですよね。たまたま今年は結果が出ましたが、満足できないですね。

Q:2023年の会心のレースというと、どれになりますか?

ウィナーズカップの準決勝は自転車と自分の体との一体感が出ていたなと思います。

古性優作, ウィナーズカップ, 別府競輪場

内容というよりは一体感の面で「バチッとハマった」と思えるレースでした。あそこまでいったのはあの1回だけです。

Q:一体感を出すのってそんなに難しいんですね。

昔はそんなに考えてなかった気がするんですよね。でもそれは当時の自分がその程度の感覚しか持っていなくて、自分のレベルが上がってより繊細になったのかもしれません。どういう現象でそうなっているのかよくわからないものではあります。

Q:どこまで行けるか、どこにたどり着くのかわからないものを模索中なのですね。

そうですね。ウィナーズカップくらいの一体感が出ると1年を通してしっかり勝負ができると思います。それが出なくなると正直キツくなります。コンディションを万全にしていっても一体感が出るわけでもないですし。

Q:競輪祭が終わってからKEIRINグランプリまでの約1ヶ月で、もうひとピーク作れそうですか?

グランプリは周回数が多いのでトレーニングの仕方も少し変わってきます。その中でしっかり追い込んで、良いレースができるよう準備したいです。

うねうねの謎

古性優作, 南修二, 3日目10R, 寬仁親王牌, 弥彦競輪場

Q:体幹トレーニングなどはやられていますか?

僕は動きの中で「体幹の使い方を覚えるトレーニング」はしています。でも大きな括りでの「体幹トレーニング」は行っていないです。

Q:レースを見ていて、古性選手の体のうねうね具合みたいなものが、以前より増しているように感じました。とはいえ、体の芯がブレないような感じがあって……

直線的な動きよりは、捻るような感じで力を出せたら良いかなと思っていますね。自分で見ていて、もうちょっと洗練できるかなとは思います。一長一短ありますね。

Q:ちょっと古い話ですが、全盛期のクリス・フルーム選手(ロードレース)がTTに出た時、すごくうねうねするんです。あれと似てるなって。

WARRNAMBOOL, AUSTRALIA - FEBRUARY 04: Chris Froome of the United Kingdom and Team Israel-Premier Tech crosses the finish line during the 2023 Melbourne to Warrnambool Cycling Festival on February 4, 2023 in Warrnambool, Australia. (Photo by Con Chronis/Getty Images)

クリス・フルーム(ツール・ド・フランス 2013、15、16、17総合優勝)

クリス・フルームに聞いてみたいですね(笑)どうやってやっているか。自分は体も大きくないですし、筋肉の長さも短い。その中で全部の力をペダルに乗せなければいけないので、その辺りを考えた結果の動きが「うねうね」だと思います。

当たって相手のスピードをもらう

Q:競る時に気をつけていることはありますか?

自分が勝てる間合いになった時、逃さずにいくこと。横に並んでいる時、「勝てる雰囲気」と「負ける雰囲気」の間合いが一瞬できるんです。レース中、走路や緩急などで「隙」が絶対に出てくるので、その瞬間を逃さずに仕留めます。自分が当たりに行っても意味のないタイミングがありますから、当たって意味のあるところで、”短く強く”仕留めたいと思っています。

古性優作, サマーナイトフェスティバル(G2), 函館競輪場

Q:それは誰かから学んだのでしょうか?

やりながら覚えていった感じです。車輪で持っていくのは転ばせてしまうし、ダサいと思っています。体で当たっていけば相手もコケないですし、短く強く当たると相手のスピードを僕がもらうことができるんです。

なので横に動くときは、基本的に相手のスピードをもらうことを考えています。自分が当たりに行っていることは、逆にいえば相手に押してもらっていることになる。相手はその分止まってしまうので、自分は楽だし、相手はしんどい。そういう状況を作りたいですね。さらに欲を言えば当たらずに勝ちたい。違反点をつけずに勝ちたいです。

自分の中でそれができたのは高知(全日本選抜)の決勝。新田(祐大)さんとの競りになったとき、自分は違反点をつけずに脇本さんの後ろを死守できました。

古性優作, 全日本選抜競輪(G1), 高知競輪場

新田さんも脚があるので普通なら大きく動きたいと思うところなんですが、できることなら動かずに雰囲気で脚をいっぱいにさせて後退させたい。それが自分の理想ですね。それでもまだ来るんだったら、良いところで強く短く「ドン」と。すぐに勝負を終わらせたいです。

Q:良いところで強く短くが上手く行った場合、加速感は感じる?

はい、押してもらえる感じがあります。それがベストですね。

Q:それって映像ではわからないレベルですよね……?

ちょっと難しいかもしれないですね。当たるときは、チャンスがもう1回出るような当たり方をするんです。

「2回当たる前提で当てる1回目」

自分が当たりに行って、自分が元の場所に戻って、向こうも上手い選手ならもう一度戻ってくるから、そこをもう1回当たる……2回当たれるような当たり方を1回目でするんです(笑)難しいですけど、そういうイメージ。2回あるつもりで1回目をやって、それで自分が加速できたらベスト。でも相手がもう1回来るようならそれに応じます。

そのためには内外線から外して戻ってくる秒数も計っておかなければいけない。イエローライン付近に持って行く(けん制する)にしても、「何秒以内に戻って来れば3番手は入ってこられへん」とか……戻るのが早くないと「2回当たるつもりの1回目」もなにも無いわけです。

Q:番手職人の話ですね。

でも今のところ、2回当たる前提ではあっても、実際に2回当たったことはないです。1回目で止まっています。

Q:古性選手にやられると、他の選手は吹き飛ばされているイメージです。

そんなことないです(笑)宮杯の決勝でも松浦に当たりましたが、あれも2回当たる前提の1回目。1回でスピードが鈍ったので2回目の必要がなくなりました。

新山響平, 佐藤慎太郎, 脇本雄太, 稲川翔, 古性優作, 決勝, 高松宮記念杯競輪, 岸和田競輪場

Q:強烈なのをいきましたもんね。

あのときは脇本さんもスピードが上がっていましたね。持っていきやすい(けん制しやすい)スピード域だと仕事がしやすいと感じました。タレてくる感じの中だと、かなり無茶な持っていき方にもなりかねないです。前が速いからこそ、というのは間違いないです。でもベストは前がスピードを上げていなくても持っていけることですね。

Q:2回前提の考え方はどのように生まれたんでしょう?

自分がされた経験が大きいです。相手がわざとそうしていたかも、たまたまそうなったのかもわからないですが、自分が止まってしまって「これやられたら無理やな」と思ったこと、体験ベースです。「じゃあ自分もこうしたろ」っていう。

Q:「ザ・競輪」の世界ですね。

そうですね。加えて先行選手には考えられない世界だと思います。

Q:こういったことって古性選手以外も考えているんでしょうか?選手同士で話をしたことはありますか?

ないですね。でも常に人の後ろについている人は、経験のデータ量が違うと思います。僕よりもっと繊細な話になるんじゃないかと思います。僕は自分がやられて嫌なことベースなので……

Q:相手が強ければ強いほどもらえるパワーも大きくなるかと思います。強い選手ほどやりやすいということはあるんでしょうか?

相手が強いと、まず自分の落車のリスクが上がりますね。相手の力をもらったとき、ブレずにその力を受け取れるかどうか。当たりに行く時の顎や頭の位置なんかも大事になりますし、ハンドルの加重の割合とかも……スピード差があまりない方が、簡単は簡単です。

それにうまく速度をもらえたとして、自分がラインで組んでいる先行選手の横くらいまで行ってしまう可能性もあります。難しいところですね。あとは捲っている人のスピードが止まると、その後ろの人が落車してしまう危険性も。その辺りも含めて計算する必要があります。

レース中に見えている世界

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