あの先行を生み出すトレーニング
Q:眞杉選手といえば「先行」。先行って体力がいると思いますが、どのようなトレーニングを行っていますか?
アマチュアの時からですが、街道練習が多いです。特に今は宇都宮バンクが改修中なので……たまに前橋に練習に行ったり、合宿で他の競輪場に行って練習したりはあります。でも街道がメインです。
Q:具体的にどのような練習方法でしょうか?
1周30キロのコースの中でもがきをやったり、ちぎり合いをやったりします。どちらかというとちぎり合いがメインですね。若手のメンバーでやっています。ぶっちぎるというよりは、長く牽くことを念頭に入れてます(※練習メンバーの先頭で走ること)。
いつもこの1周30キロのコースを午前にやって、午後に街道に行ったり、バンクに行ったりというメニュー。ただ最近、神山さんに「朝5時に起きて、5時15分には良い感じのスピードに乗ってたよ」って話を聞いて(笑)
「9時半から乗ってる場合じゃねえぞ」と思って、ここ数ヶ月は2周行くようにしています。だから午前中に60キロ、午後もがき、という感じです。
Q:それを毎日でしょうか?
ほぼ毎日ですね。休むのは本当に疲れた時とか、練習相手がいない時とか……競走が詰まっているので、前泊とかで乗らない日は少しあります。そこを休みとすることにしていますね。あとは雨の日とか、取材のある日とかも練習を半日無しにしています。
実はかなりの感覚派
Q:心拍数やパワーなど、数値は気にしていますか?
していないですね。タイムを測ることすらしません。感覚派です。メーターがついてるのでトップスピードくらいはわかりますが、競輪学校以来パワーなどは測っていません。
Q:ちなみに当時のマックスはどのくらい?
1400ワットくらいしかないです。
Q:今だともっと違うのでは?
1回「測ろうよ」となったことがあるんですが、その時でも1500くらいしか出なかったです(笑)去年くらいの話かな。
Q:あの加速が出せるのに?!ペダリングが上手いのでしょうか?
ですかねえ。ウェイトもやらないんです。やってもジャンプとか、そういうのくらい。ジムの契約をしているけど全然行ってなくて、会費だけ無駄に払っています。
つい数日前、練習相手がいなすぎて5ヶ月ぶりくらいにジャンプをやったんですよ。5ヶ月ぶりにやっても意味ないと思うけど(笑)
Q:そろそろ退会した方が良いのでは……(笑)
もともと、週1くらいで行ってはいたんです。ぼちぼち戻そうかと思っているんですが。
やるのは、本当にシンプルなジャンプ。あとはレッグプレスをちょっとやりますが、重いのは全然できないです。60kgも難しいんじゃないかな……
Q:そうなると、本当に自転車の上で培った筋肉だけで勝負している、という感じですね。それは宇都宮支部の傾向みたいなもの?
そういうわけではないですね。むしろウェイトやってない人はいないんじゃないかと思うくらい。
Q:プロテインとかは?
……………………持っています。
Q:この回答は、飲んでない人だ(笑)!じゃあ食事に気をつけてるとか?
食事も、結構好きなものしか食べてない方だと思います。ケーキばっかり食べてるとまでは言わないですが、焼肉食べたくなったら行くし、糖質とかもよくわからないし。食べたいものを食べています。
サプリもお勧めされて飲んではいるのですが、なんの効果があるものなのかよくわかってないっていう……
Q:強さの秘密がわからない!
適当ですよね(笑)乗り方のアドバイスを求められたりすることはあるのですが、僕は感覚で乗っているし、話もうまくないので……むしろこっちが聞きに行くくらいです。
Q:宇都宮は練習環境としてどうですか?
とても良いと思います。いろんなコースがあるし、街道練習がしやすく、バンクも近い。食事にも困りません。
Q:おすすめの餃子屋さんとかありますか?
地元の名物って、意外に食べませんよね(笑)でも親がいつも買ってきたのは「正嗣」でした。お店で食べるというよりは家で食べることが多いです。
Q:G1タイトルを獲得して、街中で声をかけられるようになりましたか?
街中はあまりないですが、近所のスパ施設で声を掛けられることはありますね。
愚直なトレーニングによる成功例もある
Q:競輪選手として、着実にステップを踏んでいる感はありますか?
形だけ見たらそうですが、今年のオールスターは番手だし、宇都宮記念も番手でした。しっかり自力で獲ってこそ「ステップを上がっている」と言えると思います。成績だけ見たら上がっているんでしょうけれど……(神山)雄一郎さんにも「おまけだと思って」と言われたのですが、本当にそうだと思います。
Q:年中ひっきりなしに開催がある競輪選手は、ひとつの目標に向かって長期的なトレーニングをするのが難しい面もあると思います。
でも、現状維持をずっとしているわけにもいきません。難しいけどやるしかないと思っています。
神山さんは最盛期の頃、バケモンかってくらいの練習量をこなしていたそうです。また調整(レース直前の休息)もしていなかった。
ずーっとハードな練習をして開催に臨む、そういう成功例もあるんだなと思います。毎回目の前の開催に合わせて調整を入れてたら、永遠に調整ばっかりになってしまう。そうならないようには意識しています。
Q:例えば2週間休みがあるとします。自転車に乗っても乗らなくても、どのように過ごしても構いません。眞杉選手は心配で乗っちゃうタイプでしょうか?
乗っちゃうタイプです。でも旅行も好きなので、そういうものも入れつつ楽しむと思います。実際に以前旅行がてら沖縄合宿に行ったんですが、休暇と練習半々くらいで、バンクには入らず街道メインで練習しました。
「着火したら行っちゃう」タイプ
Q:旅行がてら合宿という話が出ましたが、海外旅行もされますか?
1ヶ月くらい前に韓国に行きました。食べ物がなんでも辛いですね!観光とカジノを目的に2泊3日の旅でした。
Q:カジノは勝ちましたか?
一通りやってみたんですが、負けました(笑)!一度は元手の2倍くらいになったんですけれど、最終的にはマイナスでした。一緒に行ったメンバーは勝った分だけ次の賭けに入れていたので最終的にプラスでしたが、自分は感覚がバグっていましたね。
Q:着火したら行っちゃう感じ、レースの先行の感じと同じですね(笑)
出てますね(笑)とりあえず勝負してみるっていう。
Q:天性の先行屋というか、「負けたくねえ」で着火されちゃう感じがありますね。
自転車以外のスポーツはちゃんと向き合っていなかったのですが、ちゃんと向き合うからこそ「負けたくねえ」があるんでしょうね。
Q:普段の暇つぶしとしては、どういうことをすることが多いですか?
TikTokを見てることが多いです。お風呂入ってる間に見て、気づいたら1時間お風呂に浸かってたりします。
Q:24歳、TikTok世代ですね。自分で投稿はしない?
しないですね。でも面白くて、延々と見てしまいます。
TikTokが世に出た頃から知ってるので、当時の音源とかも全部わかります。ヘビーユーザーです(笑)Twitterもアカウントはあるけど、あまりやってないです。
Q:そのほかの趣味としては、車もお好きですよね。
5台持ってます。でも深谷(知広)選手みたいな高級車じゃないですよ。映画に出てきそうな感じの古い車です。
Q:それを取材させていただきたかったんですが……
家バレや盗難が心配なので断らせていただきました(笑)
あの頃憧れた選手と走る
Q:「競輪選手」は、子どもの頃には想像していなかった職業だと思います。もしご自身が子どもたちに競輪選手という職業を紹介するとしたら、どのように伝えますか?
競輪選手かあ、危ないですけどね!
Q:まずそれが出ますか(笑)
はい(笑)でも僕が高校生の時、宇都宮のジャパンカップを見に行ったらスペシャルゲストで浅井康太選手が出ていて、声をかけてサインをいただいたんです。その時「1kmTT何秒?」とか聞かれて……その人と今一緒に走れているから、面白いなと思います。
弟が中学3年生なんですが、彼も自転車が好きです。弟は小学生くらいの時にジャパンカップを見に行ったんですが、ジャパンカップを見にくる人って多くはロードレース選手が目当てで、競輪選手を見に来るって人は少ない。
そんな中、村上義弘さんがゲストで来ていて、弟が「村上さ〜ん!!」って呼んで、サインをもらって。
それはやっぱり、向こうからしても珍しいことですよね。小学生くらいの子が名前を知ってて、呼び止めてくるっていうのは。その時弟は練習着をいただいて、いまだに着て練習しています。毎日僕の家に来てローラー練習して「作新に入って競輪選手になる」と言っています。そういうのって面白いなと思います。
Q:弟さんの師匠は眞杉選手になるんでしょうか?
そうですね。スムーズにいけば3年後になると思いますが。
2023年を笑って締め括る
Q:競輪祭前(※取材時)ですのでKEIRINグランプリ2023のメンバーは確定していません。単騎の可能性も、ラインを組む可能性もあります。眞杉選手は単騎でも別に平気?
単騎に苦手意識はないです。行けるところで、ワンチャン狙えればと思いますね。
Q:オールスターの段階でグランプリが決まると、2023年の後半戦に余裕が持てたと思いますが、どうですか?
余裕は持てますが、余裕こいてる場合じゃないというのが正直なところです。だからこそセッティングや自転車など、調子良いと言い難いところを早く万全にしたいと思っています。
Q:最後に、今年をどう締め括りたいですか?
笑って締め括りたいです!
この取材後に実施された競輪祭で眞杉は単騎で優勝し、年間2つ目のG1を獲得した。
関東の先行屋、眞杉匠の初挑戦となる「KEIRINグランプリ」。この若手ならば見せ場を作ってしまうのだろう。そんな勢いを感じる眞杉選手とのインタビューとなった。レースの後に笑った眞杉選手を観ることができるのだろうか。期待して年末のレースを待ちたい。