チームのお兄さんとして
Q:チームスプリントのメンバーである太田海也選手は、個人種目もあってなかなかチームスプリントに集中するのは難しいですよね?
海也はもちろん個人種目もあるけれど、チームスプリントが早くなれば必然的にケイリンもスプリントも速くなる。それをジェイソンは知っているし、海也も知っているから、かなり集中してくれています。
小原(佑太)は、先日のアジア選手権でも、今度の世界選手権でもチームスプリント1本でやっています。小原はかなり照準を絞ってトレーニングしていると思います。
第2戦の時、嬉しかったことがあるんです。あの大会で海也は個人種目とチームスプリントの両方でメダルを獲得したんですが、「個人で獲った種目のメダルより、チームで獲ったメダルの方が何十倍も嬉しいっす」って言ってくれて。
どれだけ本気で言ったのかわかんないですけどね(笑)でもやっぱり、それがチームスプリントの良いところだなって思いました。
Q:チームスプリントメンバーでは最年長者ですよね。先輩として振る舞っていたりしますか?
僕の中での「先輩」の定義は、別に年齢じゃないですから。どれだけ経験を積んで、どれだけ周りに良い影響を与えられるかが大事だと思ってます。
とはいえ彼らよりはレース経験はありますし、BMXでスイスに行っていたので、そこでの伝手や情報もあります。「自分が海也くらいの年の時にこういう環境があったら最高だったな」って思いながら、海也や中野(慎詞)には接していますね。
実戦の少なさはネック?
Q:チームスプリントはなかなか実戦でのレースができない種目でもありますね。
はい。でも、レースの数が少ないから経験不足とは思いません。1つの大会をこなすには、大きなストレスがかかります。毎回毎回、始まる前はみんなから頭を叩かれるみたいにプレッシャーだらけになって、終わったらすっからかんになっている。だから長い休憩を挟んで、1年に5レースとかがいいのかなと思いますね。
でも、この間ジェイソンに話したのですが、BMXからエリートとして約10年走ってきて、最近やっと緊張を楽しめるようになった気がします。
Q:さっきと言っていることが違いますが……
いやいや……
ジェイソンに付き添ってもらってスタート位置について、色々セットしてひと段落して、あとはスタートするだけっていう瞬間。その瞬間に「今までやってきたことはこの瞬間のためなんだな」って思って、その一瞬だけ「楽しい」んです。
でもレースの前の夜とか、当日の朝ごはんとか、会場に行くバスとか……ほんと何も楽しくないです。恐怖心しかないです(笑)
Q:その一瞬だけでも楽しめるようになった、という変化ですね。
そうです、今シーズンになってやっと実感したことでした。
Q:話を伺っていて「長迫選手、自信がついてきたな」と感じます。
うん、やっと「スポーツがわかってきた」って感じがします。
BMXの時は「怖い」って感覚があまりなくて、緊張感もトラック競技の方が強い。それは個人種目とチーム種目の違いからくるものなのかもしれませんが……自分の失敗がチームの失敗になってしまいますから。スタートのカウントダウンはBMX以上に怖いです。
Q:ぜひ世界選手権後に「楽しめたかどうか」をお聞きしたいですが……おそらく結果次第で変わっちゃうでしょうね。
はい(笑)
もう1回「あの時の感じ」を起こしたい
Q:これで人生最後になるかもしれない世界選手権ですが、思うところはありますか?
正直……あまりないです。アルカンシェル(虹色の世界チャンピオンジャージ)を夢を見てきたけれど、現実に手に入れたわけでもありません。……うん、正直ないですね!
BMXの時は「最後の世界選手権だな」って思って、すごく「やり切った」感がありました。成績はどうあれ、ブッ込めば同じ「やり切った」感は持ち帰れると思います。頑張りたいですね。
Q:レースの見どころはどんなところでしょうか。
タイムもですが、チームの一体感ですね。チームがひとつになる瞬間がどこかにあると思うので、そこかなと思います。でもそれを外から見て判断するのは難しいかも……
Q:ちなみにどんな時に感じるんですか?
レースが終わった時。
Q:始まる前とかじゃないんですね。
スタート前に円陣とか組むわけじゃないし、個々で集中してるだけですから。フライングもできないし、ピリピリ感はすごいですよ。それもそれで見どころですね。
でも今回の鍵は「1日に3本じゃない」こと。レースが複数日程に分かれているので「レースの感覚をそのまま持って、改善していく」ことが難しいし、経験が無いんです。でもこれはどの国も一緒なので、そういう部分も含めて「本当に強いチーム」がメダルを獲ることになると思います。
Q:改めて、今大会の目標を聞かせてください。
もちろんメダルを獲ること。それができれば、オリンピックの枠もある程度精度の高いものになってきます。他国へのアピールにもなるし、僕たちの自信にもなる。いろんな意味でメダルが必要だと思います。
これがパリオリンピック前の最後の世界選手権で、1番大きな大会です。今年はイギリスの調子が悪そうですが、とはいえ自国での世界選手権。何かしら出てきそうとも思います。
そんな中で、ネーションズカップでメダルを獲ったけれど、もう1回「獲れた」となりたいです。
2022年の世界選手権が終わって、自分たちがどういうところにいるかわからない、地面しか見えていなかったという状態だった。でも今シーズンのネーションズカップで、ふと見上げたら「あ、メダルが獲れた」となった。あの時と同じことをまた起こしたいです。