日本とアメリカ、2枚のシャツ
このチームの一員であったことを誇りに思います。私はもうじき異なるシャツを着ることになりますが、シャツを取り変える訳ではありません。2枚のシャツを着ると思って下さい。これからはアメリカチームのシャツを着ますが、その下には日本チームのシャツも着ています。ということは日本チームの方が私のハートの近くにあるということです(笑)
それほど日本チームを離れるのは辛いことです。この決断をするのには時間をかけ大いに悩みました。私は今まで8回のオリンピック/パラリンピックをコーチとして経験してきました。9回目も日本チームの一員として歩むことを考えましたが、家族と一緒に過ごすことは私と私の家族にとってより重要なことでしたので、このような決断に至りました。
Q:新たな仕事は、アメリカチームのコーチでしょうか?
コーチではなくアメリカチームの『トラックサイクリングディレクター』という役割を担います。
Q:クレイグさんにとって新たな挑戦ですね!
ジェニファー・バレンテやクロエ・ダイガードらとのイギリス遠征もありますし、ネーションズカップでは全3戦とも参加します。とても忙しくなるでしょうね。
しかし私の役目はコーチングではなく、より良い結果のために必要なことやその方法について、選手やコーチの側にいながら決定を下していくことです。どのようにテクノロジーを活用するのかや、各大会への出場枠獲得方法などを検討していくのも私の役目です。ですから今までとは違った形での挑戦となります。
私自身がコーチングをすることはありません。大会会場で私を見かけたら、何もしていないように見えるかもしれませんね(笑)
選手とも直接関わるというよりも、裏から支えていくと言った方が正しいです。選手たちに可能な限りの機会を与えていくのが仕事です。今までの仕事とは異なりますが、とてもやりがいのある仕事になると思っています。
パリオリンピックピック後は引退……?
Q:ディレクターとしての仕事を数年務め、その後またコーチに戻ることもあり得ますか?
はい。私は常にコーチとして働くことを考えています。でも正直に話すと、これが私にとっての最後の仕事になるかもしれません。日本チームに来た時点で、東京オリンピック終了後もコーチ継続のチャンスをいただけたらパリまで残るつもりでしたが、パリの後は引退を考えていました。
今回アメリカチームで仕事をするオファーをいただいた時は、すごく考えましたね。パリを目指すことは変わりません。でもパリの後にはロサンゼルスオリンピックが待っているのです。
1996年のオリンピック(アトランタ)も2021年のオリンピックも、開催国チームのコーチとして大会を経験できたことはとても幸運なことでした。多くの人ができるような経験ではありません。ですから私には活かせる経験が大いにあると思い、おそらくロサンゼルスにも行く……と思います(笑)
Q:パリの後に引退を考えていると、今言ってませんでした?(笑)
はい(笑)でも重要なことは家族と一緒に過ごせるかどうかです。今までは残念ながら私の娘も大学に行ってましたし、新型コロナウイルスの影響もあったので難しかったですが、私の体験を家族と一緒に共有したいと思っています。
それに日本には多くの友人を持つことができました。日本から離れることを友人たちに伝えるのは当然辛いことでしたが、涙しながらも皆が受け止めてくれました。なのでこの6週間ほどは、別れを伝えディナーに誘われることが多かったです。
日本チームの皆と、最後のトレーニングを伊豆で行いました。やはり辛かったですね。今日ホテルを後にする時、皆が外で待っていて見送ってくれたんです。選手たちは私のために、素晴らしいフォトアルバムを作ってくれました。私とそれぞれの選手が写っている写真がたくさん載っていて、英語で書かれたメッセージも添えてくれました。とても嬉しかったです。本当に特別な体験だったと思っています。
これからはアメリカチームのトラックサイクリングディレクターとなるクレイグ・グリフィン氏。
東京オリンピックの功績だけでなく、現在のチームを作りあげた手腕に敬意を表すると共に、これから始まる新たな挑戦を応援しようではないか。