高校時代は「実力がなかった」

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甘いもの大好き!

ブノワ:ところで松浦選手は甘い物を食べることがとてもお好きだと聞いてるのですが、「選手」として栄養面はどのように管理してるのでしょう?

松浦:「食べて良い時」と「食べてはいけない時」を自分である程度は調整しています。G1前は1〜2週間ほどかなり控えています。でも終わったら自由に食べて良いことにして……といった生活です。

ブノワ:レース前にお酒を我慢する選手と同じですね。

松浦:そうですね。因みにアルコールはすごく控えていて、今年は4回しか飲んでいません。

ブノワ:それはプロフェッショナルですね!もともと飲まれないほうなのでしょうか?

松浦:いえ、普通に飲むほうではあるのですが……その分スイーツ食べちゃっているので(笑)

ブノワ:すごいことだと思います。きちんと制限して、そしてトップ選手になっているので。

競輪選手はお金を稼いで良い車に乗って……といった部分に注目が集まりがちですが、アスリートとしてきちんと努力していることにも注目してほしいですよね。

競技と競輪をリンクさせるには

ブノワ:日本の選手が海外で走るのをご覧になることはありますか?

松浦:たまに見ます。東京2020オリンピックの脇本(雄太)さんのレースは見ました。

ブノワ:どのように思いましたか?

Men's Keirin Semi-Final ライアン・エラル Rayan Helal (FRA), マキリミリアン・レビ Maximilian Levy (GER), 脇本雄太 Yuta Wakimoto (JPN), アジズルハスニ・アワン Mohd Azizulhasni Awang (MAS), ハリー・ラブレイセン Harrie Lavreysen (NED), ニコラス・ポール Nicholas Paul (TTO), AUGUST 8, 2021 - Cycling : during the Tokyo 2020 Olympic Games at the Izu Velodrome in Shizuoka, Japan. (Photo by Shutaro Mochizuki/AFLO)

松浦:「メダルを獲って欲しかった」とは正直思いますが、どちらかというと「大変そうだな」と思って見ていて……オリンピックが延期になったのは可哀想だったなと思っています。

ブノワ:脇本選手はオリンピックから競輪に戻りましたが、「オリンピックのために奮闘した」とリスペクトを受けるのか、それとも「競技の世界の人だから」のような別世界感があるのか、どちらなのでしょう?

松浦:僕はリスペクトしています。

ブノワ:私自身も日本の競輪選手をリスペクトしていますし、日本の競輪で十分にお金を稼げるのに、それを投げ打って競技の世界に身を投じることにもリスペクトしています。「十分にお金を稼げる」からこそ競技の道を選ばない選手も多くいます。難しい言い方なんですが、自転車トラック競技にとって、競輪は最も近くにいてくれる最大の友であり、一方で才能のある人を阻んでしまう壁でもあるんですよね。

松浦:それでも、昔よりは両者がリンクしているように思います。G1の出場権も優先的に付与されたりしますし、金メダルを獲ったらグランプリに出られたりすると思いますが、そういったものがもっと増えたら良いのかもしれないと思います。それに競輪を走れない分、ナショナルチームのメンバーには金銭的な援助があれば良いのかもしれません。

ブノワ:日本の競輪に集中している人たちは、それに反感を覚えたりは?

松浦:反対意見も、もちろんあると思います。でも脇本さんや新田(祐大)さんは日本の競輪でも結果を出しているので、仮にそういった優遇措置を受けたとしてもみんな納得すると思います。

痛めつける、痛めつける、痛めつける

松浦:ブノワさんに聞きたいのですが、レース前の食事やトレーニングは、例えばグランプリに照準を合わせた場合、どれくらい前から整えていくのが良いのでしょう?

ブノワ:食べ物に関しては、1年間同じようなもので調整していった方が良いです。特別なものを食べることで体がどのような反応するかわからないので、自分の体に合ったものを食べ続けた方が良い、というのが私の考えです。もちろん大きなレースが終わった後にご褒美として好きなものを好きなだけ食べるのも、息抜きとして大切だとは思います。

トレーニングに関してはプロである以上、筋力・技術・スピード・そしてメンタルを常に鍛え続けていく必要があります。どこにピークを持っていくかのターゲットは必要ですが、基本としては常にトレーニングを続けることが大切ですね。

レースに合わせた話となると、基本的には逆算して2週間くらい前までは体を痛めつけて、レースまで2週間となったタイミングを痛めつけのピークに持っていきます。体をぶっ壊す勢いです。とにかく全てを壊して「最高に調子が悪い」のが2週間前。そこからは練習を軽くして、レースの4、5日前には「体が軽い」くらいの状態に持っていくのが理想です。

でも、これはとてもシンプルに説明した場合です。もっと細かく話すと、とてもこの時間じゃ足りません。

「この5年間は永遠に刻まれる」長い冒険も、終わりが間もなく/ブノワ・ベトゥHCインタビュー

あくまでひとつの例ですが、私は普段選手たちに厳しいトレーニングを強いていますが、「何故トレーニングしているかわかるか?」と聞くんです。答えは「自分を痛めつけるため」です。痛めつけていない選手は「ちゃんとトレーニングをしていない」と判断しているんです。とにかく痛めつけるのが、私の指導方法です。

だからこそトレーニングプランをきちんと組むんです。「ここは痛めつける」「ここは緩める」を決めないと、そしてどこまで出来るのかを見定めないと大変なことになってしまいます(笑)

松浦:(笑)

ブノワ:来日したばかりの頃の日本競輪選手養成所は「痛みを受け入れる」候補生より「痛まないように頑張っている」候補生がたくさんいました。そこがまず、強くなるためには間違っている点ですね。

松浦:まだいけるのに「これ以上は苦しいから」とやめる選手は多いと思います。でも僕は最後まで追い込みたいから、ペースを上げて上げて上げて、脚がいっぱいになるところまでいきたい。「痛めつける」ところからからは逃げたくないですね。

ブノワ:自分を痛めつけるには強靭なメンタルが必要なんです。最終的にはそこに行きつきますね。

他とは違うレース、KEIRINグランプリ

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