2022年6月にインド・ニューデリーで開催された「アジア選手権トラック2022」。これに出場した太田りゆは、日本人女子として初めてのスプリントアジアチャンピオンとなった。
東京2020オリンピック以前からナショナルチームメンバーとして活動し、近年スプリントでの活躍が目覚ましい太田。その視点から感じたレースの話のほか、「異様にインド人にモテた」というインドエピソードを伺った。
スプリント予選の評価は……
Q:アジアチャンピオンとなったスプリントのお話を伺います。予選の200mFTTは10秒976でしたが、このタイムは自分の中でどれくらいの位置付けなんでしょうか?
最近は2年くらい10秒8か、10秒7。だから自分としては遅めのタイムです。
ただハロン(200mの助走をつけたタイムトライアル)はバンクの環境面も影響してきます。周りの選手との比較が必要になってくるんですが、今回は予選1位でしたので、悪くはなかったのかなあと。
男子の選手も、みんな自己ベストより0.2秒くらい遅いタイムでしたし、インドは走りづらい、タイムの出にくいバンクでした。それを踏まえると私も自己ベストが10秒7くらいなので、10秒9はいつも通りだったのかな、と。
Q:予選1位と決まった時は「ヨッシャ!」って感じでしたか?
いえ、タイムがショックで「よし!」って感じではありませんでした。ただ1番で通過するのが自分の中での目標ではありました。
ハロンは一番最後に走る人が一番ランクが上、速い人だと目されます。私は、今回はスプリントの予選で初の最終発走でした。それでちゃんと1番だったので、自分の中で決めていた「やるべきこと」ができたことは、良かったと思います。
上位選手として、相手へのリスペクトを忘れない
Q:予選1位ということで、1回戦はスキップ、準々決勝から3選手に当たるという形でした。やっぱり1回戦をスキップできるのは楽ですか?
そうですね。1本でも少ないのは、私はすごく楽です。助かります。
Q:決勝が小林優香選手との対戦でしたので、もちろんそこが一番力の入るレースだったとは思うんですが……そこまでの2選手とのレースで、印象的だったことはありましたか?
準々決勝の対戦相手はインドの選手(トリアーシャ・ポール)で、地元の応援がすごく大きかったんですよね。話をしたら20歳で、すごく若くて。「地元で頑張るんだ」って意気込みをすごく感じました。
私が予選1位でしたので、対戦相手は予選順位の下の方から上がってきた選手なんです。そして1位とあたるのって、とても厳しい戦いなんです。そのような対戦でも「勝負を捨てずに頑張ってくれたな」と、すごく感じました。私もそういう相手に対してしっかり走りたいと思って走りました。
Q:予選1位の選手として対戦相手にはどんな気持ちで臨むのでしょうか?
ジェイソン(・ニブレットコーチ)に言われたのですが、「1位として走る態度、リスペクトを忘れちゃいけない」と。
昔、私が1位の選手と走った時に、フィニッシュ前に既に余裕を見せていた選手にすごくショックを受けたんです。「もう相手にされてないな」という感じを強く受けました。逆に最後までもがいてくれた時は「私も頑張れたのかな」って思えました。
「相手へのリスペクトを忘れない」って言われた時、そういえばそんなこともあったなと思い返しました。
2人目は韓国のチョ・ソニョン選手だったのですが、正直にいうと決勝戦の優香ちゃんとのレースに力を残しておきたかった。でもスプリントは何が起こるか分からないので、先のことを考えずに、しっかり勝ち上がろうと思えたことは、過去の経験があったからこそできたのだと思います。
さすがに目を逸らしちゃった
Q:そして決勝戦の日本人対決。どう挑んだのでしょう?
何度も対戦したことがあって、お互いの苦手なこと、好きなことがわかっている相手です。すごく難しいレースなんですが、相手が優香ちゃんっていうよりは、対「選手」としてレースができたと思います。
スプリントの対戦前って、私はいつも相手の目を見ていますが、今回はさすがに逸らしちゃいました(笑)
Q:それは相手が小林選手ということをあんまり意識したくないから逸らす、ということでしょうか?
それもあるし……やっぱり「敵すぎる敵ではない」から。これは「ライバルではない」という意味ではありません。
普段なら結構な目つきで見ていて、向こうが目を合わせられなかったら強気なレースができたりもします。そこから戦いは始まっていますね。
Q:今回は目を合わせなかったとのことですけど、普段のレースでのスタートラインでの睨み合いの時って、何を考えてるんですか?
そりゃもう……喧嘩を売っています(笑)!あの場に立ったら、そういう闘争心剥き出しの気持ちで行けと言われています。目が合わない人ももちろんたくさんいるんですけど、強い選手と対戦するときは大抵目が合います。
Q:ちなみにですが、スプリントでは前と後ろ、どちらが得意とかありますか?
どっちも大丈夫です!どっちでも良い、って思えていることは本当に武器だと思います。
Q:それは最初から?それとも最近になってでしょうか?
最近です。最初は後ろからの方が得意でした。でも今は、本当にどっちでも大丈夫。決勝のレースは自分から前を取って走りました。
目指している場所は、もっと上
Q:アジアチャンピオンになって、一番最初に思ったことは何でしたか?
「やっと獲ったなあ」って感じがしましたね。今回の出場選手は、香港チームがいないことは事前に分かっていましたが、中国が不参加なのは現地で知りました。その中で「私が1番になる」と現実的な目標を持っていました。
表彰台の真ん中に立った時に「泣いちゃうかも」と思ったのですが、全然そんなことはなかったですね。
Q:どういう感情だったのでしょうか?
もっと達成感などを感じるかと思ったのですが……表彰台に立ってみて「目指しているものはもっと上にあるんだな」と実感しました。ここがゴールではないんだな、って。
Q:無意識だったものを、表彰台で実感としたということでしょうか。
そうですね。もっと上を望んでいるし、ここで満足しなかったということが、自分が成長した証だったのだと思います。
アジア選手権🇮🇳
個人スプリントで優勝しました🥇サポートしてくれたみんなのおかげで
アジアチャンピオンになれました😌*仲間を信じること頼ること
諦めないこと自分を大切にすること
何事にも前向きに真摯に向き合うことまたパリオリンピックに向けて頑張ります❤️🔥応援ありがとうございました! pic.twitter.com/XOKhjrqmnC
— 太田りゆ/RIYU OHTA (@keirin_riyu) June 21, 2022
ジャパントラックカップでは強敵との対戦も?
Q:次はジャパントラックカップが控えています。香港が参加表明しているので、リー・ワイジー選手も来ますが……
勝ちたいです。でも……勝てるかな……
Q:「勝てる」と「勝てるかな」の割合ってどんな感じですか?
「勝てるかな」が80%です(笑)
衝撃的に強かったんですよ。1回も前に出ることができていないと思うし……勝てたら自分は本物だなと思えます。勝てなくても良い戦いができたら相当強くなったなと思います。本気で戦ってもらえるくらいにはなってると思います。今までは遊びみたいな、流される感じで終わっちゃっていましたから……。
Q:ではガチ勝負を伊豆で見られることを期待して。
「期待してください」とは言い難いですけど(笑)でも、一生懸命やります。