中日スポーツ・東京中日スポーツの八手亦記者による、寄稿記事をMore CADENCEに特別掲載。オリンピック トラック競技期間中、いつもと異なる視点から見る「自転車トラック競技」をお届けする。

ともに1着で準々決勝へ

新田祐大(35)=日本競輪選手会=が4組1位、脇本雄太(32)=同=は5組1位で、ともに8日の準々決勝へ進んだ。

まだ1回戦。それでも男女ともにメダル争いができずにいた自転車競技の悪い流れを2人が断ち切った。最初に決めたのが4組の新田。苦手だった一番内からのスタート。先頭で周回を重ね、2人を行かせての3番手まくり追い込みは鮮やかだった。

「スプリントでは大きなミスをした。ケイリンは力を出し惜しみせずにペダルを踏み込んだ。苦手なスタート位置も練習の中で一番得意になった」と胸を張ってみせた。頼もしく成長した教え子のレース運びにブノワ短距離ヘッドコーチ(HC)も賛辞を贈った。

「小さなミスが一つあっただけ。あの位置からのレースは以前から課題だったが、いろいろなシミュレーションをして、完ぺきにできていた」

この日まで盛り上がりを欠いた伊豆ベロドロームの観客席。「今まで感じたことがないような声援をいただけたので、押さえていた気持ちが内から出た」と新田は感激の面持ち。数多くの日の丸が初めて揺れた。

最終5組の脇本も続いた。2周ホーム過ぎ5番手からの追い上げ。仕掛けるタイミングは明らかに悪かったが、機動力の違いを見せつけるかのように敵を力でねじ伏せた。

「判断を間違えた。満足できるレースではないし、反省するところはある。でも外並走を我慢して正解だった。1着だから次につながるレースはできたし、自分の走りからは仕上がっていると思う」。苦しい展開をしのいでの勝利だけに、悲願の金メダル獲得へ手応えをつかんだ。

ブノワHCも脇本の走り方については反省を求めた。しかし同時に、メダルを取れる脚と気持ちを持ち合わせていることを確信した。「判断ミスがあったから、きれいなレースではなかった。(脇本の後ろにいた)スリナムの選手が仕掛けた時に脇本も行けば、もっと簡単なレースだった。でも深刻な問題ではない。それよりも、今日のようなぐちゃぐちゃなレースをしても、勝ちたいという気持ちを出せば勝ち上がれるということ」と話した。

新田のスプリント予選失敗を嘆き、小林優香のケイリン準々決勝敗退に失望感をあらわにしていたこの日までのブノワHC。

「やっと強さを証明してくれた。でもまだ終わってない。これが始まりだ」と指揮官の気持ちもますます熱くなってきた。そして、よほど気分が良かったのだろう。世界選手権3冠に続く東京オリンピック3冠を狙う怪物ハリー・ラブレイセン(オランダ)の1回戦5位(敗者復活戦1位)について自ら言及した。

「見ただろ。(展開に左右される)ケイリンならラブレイセンも倒せる。倒せない人間なんていないということだよ。その他で気になった選手?2人いるよ。脇本と新田だよ」と笑わせて締めくくるほどの上機嫌だった。

悲願のケイリン金メダルまで3戦。最高の形で8日の最終日を迎える。

Text:八手亦和人

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