8月12日から14日まで、日本競輪選手養成所で開催された「トラックサイクリングキャンプ」。
ピストバイクやバンクに初めて乗る初心者から、すでに競技に取り組む経験者まで、さまざまな参加者が集まり、それぞれのレベルに合わせたトレーニングに取り組んだ。その時の参加者たちの声は以下の記事でご覧いただきたい。
初めは慣れないピストバイクに戸惑っていた参加者が、少しずつスピードを上げられるようになったり、バンクを怖がっていた参加者が最終日には笑顔で周回を重ねられたり、そんな3日間の変化を、もっとも近くで見ていたのが当日のコーチたち。
参加者を指導したコーチ、そして自身もかつて「ガールズサマーキャンプ」に参加し、今回は講演する立場として参加者と向き合った太田りゆ選手。「教える側」の目には、今回のトラックサイクリングキャンプはどのように映っていたのだろうか。
今回のキャンプでは、参加者の経験や技術に応じてグループ(A:経験者 B:中級者 C:初心者)を分け、それぞれに合わせたトレーニングが行われた。参加者を間近で指導したBチームの沼部早紀子コーチに、まずは今回のキャンプを振り返ってもらった。
沼部早紀子Bチームヘッドコーチ「夢へのプロセスの始めの一歩」
Q:今年の参加者の、レベルはいかがでしたか?
ほんとうにたくさんの申し込みをいただきました。その中で今回は初めてこのキャンプに参加する参加者が多かったんです。やっぱりトラック競技が全く未経験の人が多かった印象です。
ペダルの脱着、ブレーキ、自転車の乗り方という基礎を教えなければいけないことは変わらないのですが、力量というかセンスみたいなところは例年よりも、ちょっと上手な子が増えたという印象です。
そして志望動機が、競技は未経験ですが競輪や自転車競技というものに興味があるという方がすごく増えた印象です。特にガールズケイリン選手になりたいという明確な目的を持って参加している子が多かったこともあり、上達が早い子が多いし、元々別の競技をで活躍している選手などもいたので、センスみたいな部分を感じたのかもしれません。
Q:すでに10年間程度このキャンプに関わっていると聞いていますが、さまざまな選手がここから輩出されています。意義のような物は感じていますか?
意義は本当に毎年すごく感じています!
数年経ってから、本当にプロの世界、競技の世界で活躍する選手が出てきます。その活躍している選手たちの、始めの一歩を見ることができることは「あの選手がこういうふうに成長していくんだ」と、その後の過程も一緒に見ていけるので、大きな意義を感じます。太田選手みたいに、本当にこのキャンプがきっかけで意志が固まった子も多いです。
私自身も様々なところで、たくさんの選手が「あのとき教えてもらいました」と声をかけてくれます。ここで仲間を作って、学んで、そしてプロになり夢を叶えていく。そのプロセスを踏んでいる選手たちの一歩目になれていることが嬉しいです。
Q:実際に乗っている人たちを見て「この子はセンスあるな」とか分かりますか?
その選手が日本代表やオリンピックにまで行けるかどうかは分かりませんが、自転車競技に向いているのかいないのか、その点は分かります。佐藤水菜選手、内野艶和選手、太田りゆ選手など、やっぱり皆光る物を持っていました。
昔は1週間ほどキャンプの期間がありましたが、今回のように3日間だけでも、どれだけ上達したかが分かりやすい選手もいます。後々にすごく活躍する選手は、1番上手だったり、覚えが早かったりっていうのは確かにあると思います。その後はナショナルチームのコーチ人がポテンシャルを見極めて、ピックアップしていくっていう、その次のステップに任せます。
この事業は2010年からで、私は第一回目の参加者でもありました。この事業が無ければトラックサイクリングに出会ってない人もたくさんいると思いますので、本当に意義を感じています。
太田りゆ「キラキラ輝いているみんなに、挑戦してほしい」
今回を含めてここ数年、参加者に向けて講義を行ってきた太田りゆ選手。太田選手自身も、2015年に同様の趣旨で開催されていた「ガールズサマーキャンプ」への参加経験を持つ。当時は自転車競技未経験。そのキャンプをきっかけに競輪選手を志し、ガールズケイリン選手としてデビュー。その後はトラック競技の日本代表として世界を舞台に戦ってきた。まさにこのキャンプから始まった成功例を体現する存在でもある。今回の講義を経て感じたことを伺った。
Q:今日1日を通して感じたことを教えてください。
昔の私もそうでしたけど、みんなは全然知らない世界に飛び込む気持ちで来ています。みんなすごくキラキラした気持ちで、顔も輝いていて。今から何でもできるし、何にでも挑戦できる。いろいろな可能性があると思います。私自身もそうだったので、いろいろなことにチャレンジしてほしいなと思っています。
Q:講義では女性アスリートならではの悩みにも触れられていました。そのあたりには、まだ難しさもあるのでしょうか?
女性アスリートとして競技をしていく中で、やはり身体や体調との付き合い方については、まだ分からない部分や、やりづらい部分もあると思います。だからこそ、実際に経験してきたアスリートが、恥ずかしがらずに具体的でリアルな話をしてあげられる機会に、すごく良い場所だと思います。
Q:このキャンプが未来の選手を育てる大事な場所になっているという感覚は、年々強くなっていますか?
実際にこのキャンプを経験して、その後デビューしてきた選手が何人もいます。デビューした時に「実はサマーキャンプで太田さんの講義を聞いて、悩んでいたけど選手になると決めました」「腹をくくりました」と言ってくれる人もいて。その人たちとプロとして一緒にスタート地点に立てるのは、すごくうれしいです。
Q:2015年にこのキャンプへ初参加したことが、競輪選手を目指すきっかけになったと思います。改めて参加したきっかけと、当時の経験が今にも活きている部分を教えてください。
ガールズケイリン選手になるかどうか悩んでいました。当時は自転車に乗ったこともないのに、この業界のことは知っていて「やってみたいな」と思っていましたが、なかなか腹をくくれない部分もありました。私は「とりあえずやってみよう」という気持ちがすごく強かったので、試しに来てみたのがガールズサマーキャンプでした。
実際に体験していくうちに「私にもできる」と直感的に思ったんです。「大学卒業まで待っていられない」と思って、思い立ったら即行動という感じで、大学3年生の時に受験して、4年生は休学して養成所に入りました。若い時の勢いというか、本当に感じたままに動きましたが、結果的にはすごく良い道を自分で選べたと思っています。
Q:その時の経験が、今にも生きているところはありますか?
チャレンジすることは癖づいていると思います。「大学を卒業してからやろう」とか、「今やっていることを一旦終わらせてから」と考えることも普通はあると思います。「まだ早いかな」と思うこともある。でも、そうじゃないこともあって、飛び込むべき時には飛び込んだ方がいい。その経験は、今も決断力という意味では役立っていると思います。いろいろな場面で決断する力が、あの経験をきっかけに生まれたのかなと思います。
Q:ご自身が参加していた頃と、今参加している子たちを比べて、変化を感じる部分はありますか?
ガールズケイリン自体への理解が深まっていると思います。私が参加した時は、競輪選手に誰がいるのか、ガールズケイリンが具体的にどういうものなのかも、正直あまり知らない状態で入ってきました。でも最近参加している子たちは、「こういう選手になりたい」など具体的な選手の名前まで挙げられるようになっています。それくらいガールズケイリンの認知度が上がってきているというのは、年々感じています。
Q:集まってくる参加者のタイプにも変化はありますか?
自転車競技をすでにやっている子たちも増えていると思います。以前はもっと初心者が多かった印象ですが、今は競技経験のある子がレベルアップを目指して参加する場所になっていたり、合宿のような感覚で参加している子も、以前より増えてきているのかなと思います。
Q:進路や、プロになるためにどんな選択をするか悩んでいる若い世代へ、どんなメッセージを伝えたいですか?
比較対象が多すぎて、自分の意見を言いづらい子どもたちも多いというか、SNSの時代になって、周りと比較することがすごく多い時代だと私は思っています。自分で選択するというより、なんとなく言われたままに進んでいる子が、私たちが子どもの頃より多いように感じます。だからこそ、「やりたいこと」や「挑戦したいこと」が、なんとなくでも自分の中にある子はいいなと思います。それを少しでも自分で試してみる。一歩挑戦してみる勇気を持ってもらいたいというのは、自分自身の経験から思います。
3日間の「その先」を見据えて
自転車に乗る楽しさを知ってほしい。もっと上手く、もっと速くなってほしい。そして、この経験を3日間だけで終わらせず、それぞれの場所に持ち帰って成長してもらえれば、トラックサイクリングキャンプの目的は果たされたといえるだろう。
参加者を見守った指導者たちの言葉から見えてきたのは、目の前の上達だけではなく、その先を見据えた思いだった。参加者にとっては、さまざまな「初めて」に挑戦した3日間。指導者にとっては、その一歩をすぐそばで見守った3日間。ここで伝えられた技術や経験、そして自転車に乗る楽しさが、将来の糧になることを期待したい。
初心者も経験者も自転車の楽しさを知る3日間 豪華ゲストの姿も/『トラックサイクリングキャンプ in 日本競輪選手養成所』