日本が誇る夏季五輪種目「ケイリン」における現世界チャンピオンである、佐藤水菜。
日本の競輪でも、女子として史上初の“グランプリスラム”(全G1とガールズグランプリ制覇)を果たし、その圧倒的な力は誰もが認める選手。

世界チャンピオンの証、虹色のレインボージャージ、通称「アルカンシェル」の現所有者として迎える『2025世界選手権』。意気込みを尋ねると、驚くほど冷静な言葉が紡がれた。だが、その一語一句を辿るほど、強さへの渇望が感じられる。

世界選手権への特別企画の第1弾。
ケイリン世界女王・佐藤水菜のインタビューをお楽しみいただきたい。

“全クリ”後に広がる空白

2025年8月の『女子オールスター競輪』にて、“グランプリスラム”を達成した佐藤水菜。
決勝のレース前、「ここで決めなきゃ」という強い想いで臨み手にした快挙だったが、その胸に残ったのは喜びだけではなかったという。

「(ガールズケイリンでの)目標がなくなってしまった、という感じはありました。ゲームで言ったら、“全クリ”をしてしまったような状態というか。でも、良く言えば自由に走れるようになった気はしています」

「勝てるわけない」 無敵の女王が抱える苦悩

国内のガールズケイリンでは無敵の佐藤。しかし本人は常に自分を疑い、だからこそ練習に励み、不安を削いでいく。

「いつも競輪の開催前は、“勝てるかな、勝てるわけないよな”という気持ちを持っています。でも、いろんなことを犠牲にして、本気で自転車に取り組んできた。その自負はあります。それが、結果として現れてくれているんだと思います」

世界一の称号と、「自分は弱い」という自己分析

自転車競技では、今年の『世界選手権トラック』はケイリンのディフェンディングチャンピオンとして臨むこととなる。だが、昨年の世界一という偉業達成は自信ではなく、己の現状を見つめ直すことに繋がっていた。

「去年の金メダルは、オリンピック直後ということもあり出場していない海外選手もいましたし、正直に言うとラッキーで取れたような感覚があります。だからこそ、次は実力で頑張りたいと考えているのですが、練習中は“自分は弱い”と思うことばかり。現状は、自分の弱さを嫌というほどわかりすぎている状態です」

頂点に立ったからこそ見える景色には、まだまだ先があった。

悩ましい課題

世界を語る時、オリンピックを経験したが故に「自分は弱い」と語る佐藤水菜だが、その実力が世界トップレベルであることに疑う余地は無い。だからこそ、今の環境には意外と思える課題もある。

「レースの後、ジェイソン(・ニブレット短距離ヘッドコーチ)から『国内のレースで、今日は勝てたけど、“佐藤水菜と対戦”していたら勝てていなかった』とフィードバックを受けることも多いです。日本チーム全体としても、もっと強くなるために全体の底上げは必要だと思います」

経験値も実力も日本の女子選手を引っ張っていく存在となった佐藤。しかしトップレベルの中での切磋琢磨がこれからは必要となることを練習でも、試合でも感じている。そしてナショナルチームの遠征が少ないことも理由の一つとなっているかもしれない。

スプリントでは時には男子選手との練習も取り入れていると言うが……

「(男子選手との練習は)レーススピードも全然違うので、後ろについていくだけになってしまう。対戦ラウンドに必要な、技術へのフォーカスができなくなってしまうんです。そこを磨くために、ジェイソンと(本来の3周での勝負ではなく)2周までの練習に取り組んだりもしています」

速くなるために、オリジナルな道を

一方で、ウェイトトレーニングに関してはたしかな手応えを感じている。

「ジェイミー(・ダグラス/S&Cコーチ 2025年初に就任)が来てトレーニングが変わりました。ファブリース(・ヴェットレッティ/前S&Cコーチ)が整えたベースがあって、そのうえで足りないピースを埋めてくれている感じです。チームとして、すごく前に進んでいると思います」

「フィジカル面に関して言えば、私は皆さんが持っているイメージよりもサイズは大きくないと思います(笑)。太ももだったり、肩幅とか。空力のことを考えると、小さい方が良いと個人的には思っています。目的はあくまで、自転車が速くなること。しっかりと考えて、オリジナルの道を歩んでいけたらと考えています」

身体を大きくすることが目的ではない。空力やバランスまで含めた「速さ」への追求が、彼女の強さを形作っている。

自身が考える「佐藤水菜の強み」とは?

1/2 Page