2025年6月12日にUCIより発表された、「機材規定」の改訂に関するアナウンス。

UCI | ニュースリリース(2025年6月12日)
UCI | プレスリリース(2025年6月20日)

その内容は、ハンドルやフォーク幅、ギア比など細部にまで踏み込んだもの。
ロードとトラックでその詳細や施工時期は異なるが、トラック競技に関していうと、2027年1月1日より

ハンドル幅の最小値:外外350mm以上(マススタート種目を対象)
フォーク内幅の最大値:フロント115mm、リア145mm

という規定が適用されることとなる。

※「マススタート種目」とは、大人数で一斉にスタートする種目のこと

すでに、「TCM-3」の開発が

「急速な技術進歩とレース速度の大幅な向上」を要因に、「安全かつ公平な競技環境を確保」を目的として設定された新ルール。東レ・カーボンマジック、HPCJC、そしてJKAの補助事業により実現したコラボレーションで2024年には3人(山﨑賢人・佐藤水菜・窪木一茂)の世界チャンピオンを産み出した日本ナショナルチームが使用する「V-IZU TCM-2」も、この規定により変更を余儀なくされる。

世界を獲ったV-IZU TCM-2

すでに「TCM-3」の開発が進められており、先日はジェイソン・ニブレット短距離ヘッドコーチによる試乗が行われたばかりだ。

UCIの新ルールがもたらした衝撃はどの程度のものだったのか。
そして、開発が進む「TCM-3」とは?

東レ・カーボンマジックの間宮健プロジェクトマネージャーと、(株)SYNSETECH代表(元ムーンクラフト空力開発担当)の神瀬太亮氏に話を伺った。

左:神瀬さん 右:間宮さん

規定変更は「妥当」

Q:UCIの発表で、TCM-2の1番の売りでもある「フロントフォーク」や「リアフォーク」というところに規制が掛かる形となります。この決定は、衝撃的なものでしたでしょうか?

特徴的なフロント&リアフォーク

神瀬:いや、妥当といえるんじゃないですかね。これまでは加熱しすぎていた部分があると思いますし、たとえば車業界だと、規制をかけることで新たな革新的な技術が生まれることもある。つまり、各チームが頑張るきっかけになるんです。そういう意味では、レギュレーション変更があった方が盛り上がると思います。

Q:いきなり、意外な答えです(笑)もっと「Oh No!何故だ!何故なんだー!!」みたいな反応かと思っていました。

神瀬:これまでのフォークの幅のレギュレーションって、最大値の規定がものすごく大きい値で、性能としては広くすればするほど良くなる、という傾向でした。その中で、構造的に可能な最大幅でLOTUS(イギリスチームが使用)がやっていたのですが、LOTUSはそれにパテント(特許)をかけています。元々、そういった制限のうえで我々は開発を行っていました。

参照:Lotus Cars Yotubeチャンネル

今回、UCIによる規制が厳しくなった中で、これまでと同じような効果を得られるように、各国がトライしてくるんじゃないかなと予想しています。

すでに経験したアプローチ

Q:規制が強まったことでやれることが減ってしまうのでは、と考えてしまうのですが、そこは技術革新によってどうにでもなるのでしょうか?

間宮:実はTCM-2の開発の段階で、我々はすでに今回の規定変更によって起こることと同じアプローチを経験済みなんです。そういった意味では他の国よりも優位性があると思います。フォークの最大値の幅が狭まったからと言って、コンセプト自体は変わらないですね。

神瀬:他の国も今はかなり幅の広いフォークを使っていますが、従来のフォーク形状に戻る、という感じではないと思います。新レギュレーションの中で、工夫した形状に取り組んでいくことになりますね。

Q:冒頭で、「加熱しすぎ」という表現をされていました。それは、フォークの幅を広くすればするほど良い空力が得られることで、なにかリスクが生まれていたということでしょうか?

間宮:今回の新ルールは、最初にロードレースとシクロクロスで議論・適用され、その後トラックに適用されました。そこから言えることは、混戦である種目においてはフォークの幅が広いと危険性が高まるということだと思います。
神瀬:あとは、やっぱりあくまでも“自転車競技”なので、多くの人がイメージする自転車に近い形を保持したい、という意図もあるのかなとは感じます。自転車ならではの美しい黄金比とか、そういうものを取り戻したいというか。

やれることは無限大

Q:たしかに、今のバイクはなんだか空でも飛びそうな形状をしているものも多いです(笑)。ただ、実際にルールの変更があって新たな開発を余儀なくされる、というのは相当な労力なのではないでしょうか?

間宮:もちろん簡単なことではないですが、まだまだやれることはたくさんあります。それらをチームに提案して具現化するのが我々の役割のひとつですね。

神瀬:“設計変数”が、現在のレギュレーションにおいてはまだまだ無限大にあります。まだまだ好きにいじれるところはありますし、どこを変えようか、という感じです。

Q:レギュレーション変更によってモチベーションが下がるとか、そういうこともないですか?

間宮:我々のバイクがきっかけとなって、ルール変わった。むしろ光栄なことだと思いますよ。

TCM-3 見た目は変わらないが…

後日公開する後編では、世界選手権でデビューを予定している「TCM-3」の開発に迫っていく。

▼後編はこちら

「ルールが変わったのは光栄なこと」 UCI規定の改訂に、東レ・カーボンマジックはどのように挑むのか?