「福岡の競輪トリオ」約10年ぶりの再会

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田中祥隆、野口一成、案浦攻。「元競輪選手」という3人の共通点がきっかけとなり、田中選手による「UCIパラサイクリングワールドカップ」への挑戦が実現した。

海外で開催される UCI国際大会への個人エントリー。その実体験を通して3人が考えるパラサイクリングや競輪、自転車競技の魅力や意義とは?

個人エントリーで初挑戦した国際大会

Q:国際大会への個人エントリーは珍しいことなのでしょうか?

野口:ワールドカップほどの規模の大会だと、個人エントリーでの出場は簡単なことではないと思います。また地続きのヨーロッパに拠点を置く選手たちと、遠く離れた日本の選手だと、遠征に掛かる費用も全く違います。費用面が大きなネックの1つとなるので、日本から個人参加する選手はほとんどいなかったんだと思います。

田中:私は「株式会社アイ工務店」という会社に所属しており、「年間活動費」という形で選手としての活動を応援していただいています。その活動費を利用させていただき、出場させていただきました。社員として所属しているアイ工務店では、競技に専念できるようサポートを受けています。

Q:初めてのUCI国際大会に出場した時の感想を教えてください。

田中:海外の選手と走り、レベルの差をとても感じました。「普通のことをやっていても、この差は埋めれないな」と思いましたね。そして応援の方が多かったことも印象的。やはり観客が多いとモチベーションも上がります。

案浦:サポートとして初めてパラサイクリングを見に行くまでは「大怪我をしてかわいそうな方がたくさんいるのかな」と思っていました。ですが会場にいたのは情熱に溢れた選手ばかり。手伝いに行ったはずなんですが、逆にとても元気付けられました。

自転車競技に通ずる魅力

田中祥隆

Q:3人は競輪選手を引退しても、自転車競技に深く携わっています。どのようなところに自転車競技の魅力を感じますか?

田中:仲間と一緒に自転車に乗ることは、トレーニングがどんなにキツくても楽しいです。楽ではないですが、一緒に乗っている時間や走り終えた後の達成感を共有できるのが自転車や自転車競技の良いところだと思います。

パラサイクリングに絞ると、「体の動かせる部分だけで、自転車レースに出場できる」ことが魅力です。競輪やロードレースとは違う部分は多いかもしれませんが、自転車競技としては同じなのかなと思っています。

案浦:私は競輪選手を引退した後もアマチュア選手として競技を続けています。レースを走る楽しさもありますが、自転車に乗ることで友人ができたり、自転車がきっかけでまたこうして昔の仲間と再会することができます。

アメリカに来て実感しましたが、言葉や文化の違いがあると友達を作ることは難しいです。ですが私は自転車や自転車競技を通じてアメリカ中に、そして世界にも多くの友達を作ることができました。自転車は人生を豊かにしてくれた乗り物。感謝しています。

野口:2人に全て言われてしまいました(笑)その通りだと思います。

色々なスポーツがある。色々なスポーツに挑戦できる。

田中祥隆

Q:ハンドサイクルを発展させていく意義について、それぞれのお考えを教えてください。

田中:怪我をしても、色々なスポーツに挑戦できるということを知ってほしいです。

野口:たとえ怪我で引退することになっても、次のステップ、第2の人生として色々なことにチャンレンジできる。それを伝えていくことに意義があると思います。そしてパラスポーツが普及していくことで、障害者や障害に対してより理解のある世界にしていきたいと思っています。

案浦:ハンディキャップがある人も健常者の人も、自転車の風を切って走る爽快感は、同じように感じられるでしょう。そうした感覚を色々な方に味わってほしいです。

そして繰り返しにはなりますが、私は田中くんが出場したレースに(別選手の通訳として)同行してとても元気をもらいました。ですので色んな方にハンドサイクルやパラスポーツを見ていただき、スポーツの力を感じてほしいです。

“競輪トリオ”が見据えるハンドサイクルの発展

Q:どのようにハンドサイクルを発展させていきたいですか?

野口:日本でもハンドサイクルのレース数は徐々に増えていますが、参加選手がまだ少ないです。参加選手が増えれば、集団走行のレベルも上がっていくと思います。レースに出ていなくても、ハンドサイクルに乗っている人はまだいらっしゃいます。そういった方々にも周知していきたいです。

ハンドサイクルに興味のある方は、JPCF*の公式ページを見てみたり、その他にもハンドサイクルのレースを開催している方々が各地にいらっしゃいますので、開催関係者を探し、連絡してみるのも1つの手段だと思います。

JPCF(日本パラサイクリング連盟)

田中:自転車のレンタルを通して、ハンドサイクルの普及活動をしている方などもいらっしゃいますね。

案浦:実は元競輪選手のなかには、各地でレース主催関係者として活動している人が少なくありません。今後はそういう人たちと田中選手が「元競輪選手」という共通点を基に繋がっていき、協力しながらハンドサイクルやパラサイクリングのレースも増やしていければと思っています。練習パートナーになったりと、様々な形でサポートしていただける方々も増やしていきたいです。

特に我々のような競輪選手は、事故や怪我のリスクを誰でも少なからず抱えています。同じ競輪選手として、仲間同士で助け合うことが大事だと、田中選手との交流を通してつくづく感じました。

Q:最後に、2024年で49歳を迎える田中選手ですが、「〜歳まで競技を続けたい」という目標はありますか?

田中:正直あまり考えていません。今できることを精一杯やろうと努力しています。強化指定選手を目指していますが、現状ではまだまだ頑張りが足りないと自分を評価しています。2度ワールドカップに出場しましたが、力の差を痛感したので、もっと力を付けてから挑みたいと思っています。

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