2020年2月末に行われた世界選手権では強豪オランダが驚異的な走りで世界記録を二回も更新する快挙を達成し、大きな注目を集めたチームスプリント。

全力で走るだけに見えてしまいがちな種目だが、実はハイレベルなチームワークと技術によって成り立っている。

本記事ではチームスプリントのメカニズムについて紐を解いていく。

スタートで先頭と2番目の人が離れているけど良いの?

チームスプリントを観戦している中で一番よく出てくるであろう疑問がこちら。

確かに、スタート直後に1走(先頭の人)と2走(チームの2番目にいる選手)が大きく離れる様子が散見される。先日の世界選手権で世界記録を出した際のオランダチームでもこの通り。

空気抵抗を軽減するために1走が前を走っているのに、これで意味があるのだろうか?と思われる方もいることだろう。

その疑問への答えは、レース中の2走の動きをよく見てみると明らかになる。

こちらの動画においても、両チームのスタート直後の半周程度は1走と2走の車間が大きく開いている。

しかし、1周回を経て1走から2走へと交代するタイミングでは2走がピタリと追いついている。

交代の直前で追いつくということは、離脱時の1走のスピードよりも2走のスピードの方が遥かに高い状況になっているということ。上手く間隔を調整しながら追いつき、チームが理想とするスピードで交代する必要がある。

そして先頭交代前に瞬間的にスリップストリーム(前の人が走っている後方のスペースに出来る空気抵抗の少ない空間に入ること)の効果を得て、2走のスピードは上がる。

更には2走が1走に追いつこうとする結果、1人で走るよりも力を発揮できる。

これらの結果としてレースの1周目は1走と2走の車間が開いてしまうが、結果として交代時には2走のタイムが上昇するというメカニズムだ。

スタートで離れて離れていいの?という疑問に対しては「むしろ交代の直前で追いつくのがベスト」と言えるだろう。

しかし、この技を成功させるにはシビアな走者同士の調整を経なければならない。

2走が想定よりも早く追いついてしまった場合は交代の直前で一旦踏み込みをやめる羽目になり、逆に2走が追いつけなければ、ただ大きい空気抵抗を受け続けただけになってしまう。

また1000分の1秒を争うこの種目では、チームの全員がスムーズなスタートをすることも大事な勝負の鍵となる。

2周回目からは?

2周回目に入り先頭となった2走の役割は「追いつき、スピードを上げること」から「更にスピードを上げて3走に繋ぐ」ということに変わる。とにかくグングンとスピードを上げて3走がトップスピードで最終周回に入れるようにサポートすることになる。逆に3走の選手は2走が余裕があるのか、それとも無いのかなど、これまでの走りを見て自分の距離を開け、最後の1周に備える。

そして最終周回となって単独で走る3走の選手。上がり切ったスピードをどこまで維持してフィニッシュラインを通過するのかという、シンプルにして苦行のようなミッションを遂行する。

例として『2020世界選手権』で優勝したオランダの決勝のスプリットタイム(周回毎に掛かった秒数)を見てみよう:

1走:17秒059(ロイ・バンデンバーグ

2走:11秒940(ハリー・ラブレイセン

3走:12秒226(ジェフリー・ホーフラント

1走から2走のタイムが5秒ほど上がり、2走から3走へとトップスピードで交代した後は3走のホーフラントが苦しさを耐えて前走者とコンマ3秒程の違いでフィニッシュ。フィニッシュタイムを41秒225として圧倒的な力で世界記録を更新し、優勝した。まさにチームスプリントの理想的な走りをした結果のタイムだ。

細かいギア比やタイムの調整、入念な合わせの練習、そして本番で想定通りのパフォーマンスを発揮できるかどうかなど、ワンミスが命取りとなる短距離のタイム系種目なだけに、完璧な準備がなければ完璧な走りにはならない。それがチームスプリントだ。

【チームスプリント】これでわかる!トラック競技初心者のためのルール解説・動画