本当に買えたんだ
約束された高性能、美しく機能的なフォルム、楽器の様な排気音。多くの人間を虜にするフェラーリは、この「フェラーリ 488 Spider」でも同様だ。
都内のディーラーを出て、一路箱根へと向かう。都心の渋滞を含め、約2時間の初ドライブを終えたタイミングで中野に感想を尋ねるも、それどころではないようだ。
「正直、まだ実感が湧かないです。でも、運転している時、タコメーターに目をやるとフェラーリのエンブレムがあって……本当に買えたんだ、という気持ちですね」
オリンピックに続く、夢の実現
2024年、幼い頃から目指し続けてきたオリンピックの舞台を経験。もう一つの夢であるフェラーリを手にいれるという事は、オリンピック出場の経験により、フェラーリに見合う男になった、という自負が芽生えたからなのだろうか。
「見合う男になったかはわからないですが、金銭的な面も含めて、背伸びをしている感じはないですね。
小さい頃からオリンピックを目指して頑張ってきて、去年その夢が実現した。オリンピックは、どれだけ頑張っても届かない人もいる舞台です。そこに立つことができて、ご褒美ではないですが、お金を払って叶えられる夢は叶えてもいいんじゃないかって思えるようになりました」
デビュー1年目でGT-Rやランドクルーザーを購入、ついにはフェラーリオーナーへ。それでも、「金銭的に背伸び」をしているわけではない。やはり、競輪選手は夢のある職業である、ということがよくわかる。
「僕はデビューして1年も経たないうちにGT-Rを買うことができました。何にお金をかけるかという話ではありますが、デビューから2〜3年でスーパーカーを手にできるような選手は少なくないと思います」
夢を与える側に
前回登場時には、師匠である佐藤友和選手のフェラーリに憧れたことが、競輪選手を目指すきっかけのひとつだったと話していた中野慎詞。
今回のフェラーリ購入は、その憧れを現実のものにするというだけでなく、もっと大きな理由がある。
「僕が友和さんに抱いていた思いと同じように、“中野慎詞に憧れて、自転車を始めました”という人が1人でも出てきたら、アスリートとして成功したと言えると思うんです。恩返しではないですが、子供に夢を与えられるような存在になりたい。それが、アスリートとしての大きな目標のひとつです。
競技力や人間力ももちろん必要だと思いますが、若くしてフェラーリに乗っている、ということも夢を与えるための材料になると思います。もちろん、車が大好きだというのは大前提にありますけどね(笑)」
フェラーリを手にした今も、競技者としての挑戦は続く。
目標は競輪でのG1タイトルの獲得、そして世界一の証であるアルカンシェルの奪取だ。
「今度は、自分で新車をオーダーをして、こだわり抜いた1台を作りたいんです。
そのためにも、G1の舞台で結果を出したいですし、10月の世界選手権で世界一になることが目標。今回、この車を手に入れたことで、さらにモチベーションが上がったと思います」
真紅のフェラーリは、中野慎詞の“夢の象徴”。
それは彼が走り続ける理由であり、まだ見ぬ誰かに夢を届けるための一歩でもある。