2025年シーズンが始まると『アジア選手権』ケイリンで金、スプリントで銀、チームスプリントでも第3走を務め金メダルを手にするなど、好スタートを切った中野慎詞。しかし、『ジャパントラックカップ』では大会2日目のケイリンでまさかの落車。不完全燃焼で大会を終える形なってしまった。

ケイリンのアジアチャンピオンとして世界選手権の切符(※)を手にしている中野にとって、『全日本選手権トラック』はどのような大会となるのか。不運もあるなか、たしかに感じているという成長の実感とともに語ってもらった。

※大陸選手権(アジア選手権)で優勝すると、当該種目の大陸のチャンピオンとして選手個人に世界選手権への出場権が与えられるルールがある

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お祓いへ……

Q:早速ですが、『ジャパントラックカップ』のケイリンでは落車、『高松宮記念杯競輪』でも途中欠場と、ここ最近は少し流れが良くないように感じます。ご自身としてはいかがでしょうか?

本当ですね。ひとつ歯車がずれると、そこからどんどん狂っていってしまうような感覚。そこをどう食い止めるかが、自分の力やメンタルにかかっていると思うので、しっかりと立て直したいですね。
しかし、ナショナルチームでいちばん自分が落車してるんじゃないですかね。高校とかまでは落車しないタイプだったのですが……

Q:お祓いに行った、というお話も聞きました。

三島大社に行ったのと、あとは先日岩手に帰る機会があったので、子供の頃から行っている神社でお参りしました。あとは、学問の神様が祀られている神社にも行きました。

Q:お祓いと学問は必要ないのでは……?

いやいや重要ですよ!戦術や戦略の部分で良い力を授かりたいというか、とにかく僕には学問が必要なので(笑)。そこには樹齢1200年の御神木もあったので、お賽銭を入れて、しっかりとパワーをもらってきました。

Q:ちなみにお賽銭はいくら入れたのでしょうか?

111円。“ピンピンピン”(競輪3日間開催ですべて1着で優勝すること)です。競輪のG1とかだと5日開催なので、11111円も考えましたが、さすがにそれはなって(笑)。
そうやって、いろいろとお参りをしてきました。

実録・ドクターヘリ体験

Q:、『ジャパントラックカップ』では落車後、ドクターヘリで搬送されていましたが、いかがでしたか?

じつは昔から人を救う、人を助ける仕事に憧れていて、ドクターヘリのパイロットになりたかったくらいなんです。ドラマやドキュメンタリーとかも良く観ていたのでとても貴重な体験をさせていただきました。

Q:落車後、ピットには歩いて戻ることができていたので、ヘリの出動にはすごく驚きました。

最初はすごく痛みもありましたし、ヘルメットが陥没するくらい割れていたんです。ドクターも、ヘルメットがこんな割れ方をしたの見たことないし、もしかしたら脳出血している可能性もあるかもしれない、と。そこから、あれよあれよという間にベロドロームの駐車場にドクターヘリが到着して。意識はハッキリしていましたし話もできるくらいでしたが、念のためだったようです。

もちろん乗らないに越したことはないのですが、極限の世界でレースをしている以上、こういった危ないシーンが訪れる可能性はある。医療従事者の方の存在は本当に心強いですし、ありがたいです。

負けられないし、負けない

Q:お祓いもして、得難い経験も経て迎える『全日本選手権』。中野選手にとってはどんな大会になるでしょうか?

アジア選手権のケイリンで優勝したことで、世界選手権のケイリンの出場権は手にしていますが、この『全日本選手権』はすごく重要な大会だと捉えています。本当は『ジャパントラックカップ』でレース勘を身につけたり、いろいろとチャレンジしたりと考えていたのですが、落車してしまいそれが叶わなかった。今大会はナショナルチームメンバーも全員出ますし、世界選手権に向けて良い弾みとなるようなレースをしたいです。

Q:特にBチームのメンバーからは、かなりの意気込みを感じます。中野選手としても負けられない、という気持ちもありますか?

もちろん、ケイリンは譲れないです。Bチームに限らず、Aにも負けたくないですね。負けられないですし、負けないです。スプリントに関しては正直わからない部分もありますが、アジアで2位になっている以上、負けて良い立場ではないと思っています。

戦う相手を過剰に評価していた

Q:落車の後、体の状態はいかがですか?

直後は思ったように練習を積むことができませんでしたが、現在のコンディションは悪くないです。重いギアでのスタートから、今まで出せていない出力を出せるようになりましたし、フィジカル的にも、技術的にも変わっている実感はあります。苦手だった軽いギアでの数値や回転数も、トップレベルの(太田)海也とか小原(佑太)さんには劣ばないですが、上がってきています。

Q:直近ではアクシデントもあったものの、レースを見ていて、走りが綺麗になってきたように感じます。なにか要因はありますか?

特にケイリンでは、これまでは戦う相手を過剰に評価してしまって、「ここで仕掛けないと前に出られないかもしれない」という恐怖心から仕掛けているような部分がありました。でも、レースを重ねるにつれ、ハリー・ラブレイセンにも先着することができたり、自分の力を出せればしっかりと結果を出せるということがわかってきました。

自分の力をしっかりと把握して、落ち着いてレースを見ることができている、そこが要因かなと思います。

Q:たしかに、慌てている姿を見ることはなくなったと思います。

戦う相手も、中野慎詞がどういう選手か、ということはわかってきていると思います。長い距離を踏む選手は数が少ないので、僕が仕掛けることができる部分は多く作れると思います。自分から仕掛けて、有利な展開に持ち込みたいですね。

ただ、その落ち着いた気持ちですべてのレースを走れるかというとそうでもない。トルコ(ネーションズカップ ケイリンの決勝)が、まさにそうでした。どうしても優勝したいという気持ちがあったので、自分の行くべきところで行かずに待ってしまった結果、内で詰まって外を回されてしまいました。

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Q:邪念が出てしまったわけですね。

そうです。3着までに残れば勝ち上がれるという状況の時は、とにかく自分のタイミングで思い切って行くのですが、そのほうが上がり(最後の200m)のタイムが良くて、ハロン(スプリントの予選で実施する200mFTT)と同じくらいのタイムを出せたりします。力は上がってきているはずなので、それをいかに引き出すか、というメンタルの部分かなと思います。

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