金メダリスト2人は同室

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頭と体のラグがない状態

世界一に輝いた2024年の世界選手権大会。初戦は2着で準々決勝へ。本人が振り返る。

「初戦(2着)は本当に体が動いていなくて、全然自転車が進まなかったですね。めちゃくちゃ力んでて、これはやばいかもと思いました」

準々決勝は3着、そのレースは冷静に走れていた。

「(ハリー・)ラブレイセンがちょっと流していたので、前に踏もうと思って走っていました。
捲れるかなと思ったところで合わせられてしまいましたが、そこからは(マテウス・)ルディクを封じ込めれば、2-3位で上がれるかなと思っていました」

一番前がラブレイセン、2番手がルディク、山﨑は3番手

「アジア選手権の時は、『考えてから動く』という感じがあったんです。でも、今回はラグがなくて、頭と体がマッチしているような感覚はありました。これまで、1日を通してその感覚が続いたというのはなかったです。どこかでポカをするというか、リズムが悪くなってしまって、その結果勝ち上がれないというケースばっかりで。1日通してずっとその感覚、というのは初めてだったかもしれません」

Today is Your Day

考える前に動く。それはアスリートでいうゾーンの状態だったはず。その最高の状態で迎えた決勝戦。3年ぶりとなる世界選手権の決勝の舞台で、山﨑は邪念を捨てることができた。

「正直、メダルが頭の中をチラつきはしました。でも、獲れるとは思っていなかったので、目の前のレースに集中することしかできなかったです。『メダルを獲りに行くぞ!』ではなく、『これに集中して終わってからいろいろ考えよう』という感じでした」

「準決勝では、ハンドルを握る時に一瞬震えがきて、『あ、おれ緊張してるんだ』思いながらスタートしました。それと比べると、決勝は良い状態で入れたと思います。ジェイソンもブノワも、1回戦から『Today is Your DAY!!(お前の日だ!)』って鼓舞してくれていて。まさか金メダルを獲るとは思っていなかったと思いますけれど(笑)」

ここしかない ラスト1周

ラスト1周になる前

「『ここしかない!』でしたね。コロンビアの選手(ケビン・キンテロ)より先に出て捲って行きたかったのですが、相手が一瞬前に来たので、出られなくなってしまって。そこでちょっと間を置きましたが、ミカイル・ヤコフレフ選手とかどんどん上がってくるだろうなと思っていたので仕掛けました。(ジェフリー・)ホーフラントと並走になって、吸い込まれていい形になりました」

「意外と進んどる!1着かもしれん!」

「『意外と進んどるかもしれん!』と思いながら踏み、最後の4コーナーを回ってからは『やばい!1着かもしれん!』と思いました(笑)。
右から黒い影が見えて、『やばいやばいやばやばい』と踏み続けて……250バンクなのに、あそこは長く感じましたね」

そして訪れた37年ぶりとなる、日本発祥の種目での金メダル獲得の瞬間。喜びが爆発するかと思いきや、意外と控えめなパフォーマンスを見せていた。

「優勝の確認が必要だなと思って(笑)。左右を見渡して、誰もいなかったよなと確認してから、『あっ!パフォーマンスしなきゃ!』という感じでやったので、すごいダサかったですね(笑)。その直後、窪木さんがスクラッチを獲った時のパフォーマンスがめちゃくちゃカッコよくて、悔しかったです。次のタイトルのために、考えなきゃいけないですね(笑)」

控えめな山﨑

スクラッチで優勝した際の窪木一茂 ※イタリア仕込みです※

自分が最も弱い そして、いつかは楽しみたい

2021年の初出場の時に感じた悔しさ、その後も結果を残せなかった悔しさ、パリ2024に出場できなかった悔しさ。その全てを払拭する結果となったが、本人としては納得できる内容ではなかった。

「今回の4レースを通して、展開は作れなかったなと思います。受け身ではなかったですが、自分から動いて、という感じではなかった。うまく立ち回れたというだけで、まだまだ全然です。決勝も自分がいちばん弱いと思っていたくらい、力としては全然劣ります。もしかすると、それが気負わず走れた要因かもしれないですけどね。脚力も、瞬発力も、『おれのほうが強い』って思えるメンバーではなかった。でも、決勝のメンバーの中では、“いちばん”集中していたとは思います」

「とにかく、力を出し切ることしか考えてなかったです。見ていて思うのは、強い人って楽しそうなんですよね。もちろん、実力があってこそだと思うのですが、僕はそのレベルに至っていない。全然強さが足りていないとは思いますが、今後、その境地には行ってみたいですね」

「結果が出なかったらここで区切り」

実はこの大会前から、世界選手権で結果を出せなければ競技は終わり。そう覚悟を決めていた。自転車競技の最後にすると決めたレース。山﨑は最後の最後で結果を残した。

「正直、今回メダルを獲れなかったら、競技としては区切りと思っていました。

『ここで結果が出なかったら先はない』

そう思っていたところで結果を出せたというのは、この先にもつながると思います」

世界チャンピオンの山﨑賢人として生きる

「今の状況は大プレッシャーですよ。強い人が獲ったら問題ないのかもしれないですけれど、自分はまだまだです。ちゃんと強くならないと、“世界一”とのギャップが生まれてしまうので頑張らないといけないです。適当にやってたら弱くなっていくだけですし、弱い姿を見せるのは恥ずかしいですから、40歳くらいまでは強い姿を見せたいです。

もしかしたら、この結果で競技も少しは注目してもらえるかなと思います。自分がうまくやっていけたら、競技も競輪も盛り上がって、良い効果を生むことができるのかなとは思います。この看板を活用していきたいですね」

最後に今まで聞いたことのない質問を山﨑へと問いかける、自転車競技は最高かと。

「最高です(笑)!」