ナショナルチーム、競技からの引退を決めた太田りゆ。
2024全日本選手権トラックの期間中には、会場で盛大な引退セレモニーが行われた。
2016年の日本競輪選手養成所在所中にナショナルチーム入りを果たしてから8年間。
ガールズケイリンと並行しながら、世界の舞台で戦歴を重ねてきた。
ナショナルチームに入った当時から目標と言い続けてきたオリンピックの舞台は、どのようなもので、なにを得ることができたのか。
引退セレモニー翌日の彼女に話を聞いた。
覚悟が決まった「冷静モード」
Q:まずはお疲れ様でした。太田選手は、オリンピックに出ることを目標として掲げてきましたが、実際に出場してみてどういう感覚でしたか?
自分にとっての最初のレースはケイリンの1回戦でした。バンクに向かう階段を上がっている時、いつもと同じ証明なはずなのに全然違って見えたんです。拍手や歓声もすごく聞こえました。東京オリンピックの時に観客席から見ていて、「絶対にバンクでこの声援を受けたい!」と思いました。でも東京大会はコロナ禍での開催だったからか、パリではそれ以上のものを体感できました。
「すごい!」「うおー!」と感じましたが、アドレナリンが出たっていうよりは、どこか冷静になったんです。緊張して、「ダメだったらどうしよう……」となることもあると思うのですが、「やってきたことをやるだけだ」と思いました。本当に大事なときは落ち着くというか、冷静モードに入るんだな、という点が興味深かったですね。「覚悟が決まる」ってこういうことか、と。
Q:パリでは、すべてのレースでそうなったのですか?
ケイリンの準決勝ではちょっと興奮していたかもしれないです。「いける」という欲も出てしまっていたのかもしれません。
Just Do It. 「これだわ!」
Q:細かい技術論などもちろんあるとは思いますが、それは別として、全体的に積極的なレースをしているように感じました。
念願のオリンピックの舞台で「何もできなくて終わっちゃった」ということだけは絶対にありえないと思っていました。だからといって、「やれば納得」「駆ければ称えられる」という捨て身な仕掛けではなかったと思います。やるべきことを、ちゃんとやる。
NIKEのキャッチコピーの「Just Do It.」。
正直、この言葉はあまりよくわかってなかったですけれど「これだわ」と思いました(笑)。
ちょっと違うかもしれないですけれど、私はお化け屋敷に入った時も冷静になるんですよね。騒いだり走ったりせず「おぉ……」って。例え、あってますかね?
「最高」=世界最高峰の舞台ですべてを背負えた
Q:ちょっと違う気もするけど、お化け屋敷の人からしたら困ったお客さんですね(笑)。オリンピックが終了した後、撮影させていただきましたが、「最高!」と言っていたのが印象的でした。「最高」だったのは、いまお話されたような得難い体験ができたことが理由ですか?
オリンピックという舞台に出られたことが最高、と思われるかもしれないですけど、じつは少し違うんです。オリンピックの緊張感って、ビリビリなんですよ。人生が掛かっているというか。ケイリンとスプリントで金メダルを獲ったエルレス・アンドリュースさん(ニュージーランド)って、普段はわりとふわふわした雰囲気の選手なんです。でもオリンピックの会場で会ったら全然違くて、顔もキマっちゃってるような感じだったんです。
全員が4年に一度のこの舞台に向けて仕上げてきている。私も間違いなくそうでした。その「最高傑作」同士のぶつかり合いなんですよね。
そういう舞台だからこそ、極限の緊張で逃げてしまった選手もいたと思うんです。勝負するために4年間作り上げてきたはずなのに、シリアスな感じを受け止めきれず、「参加できたことが素晴らしい」「楽しめばいい」と思ってしまうような。
でも、私はそれをすべて背負えたというか、逃げなかったなと思って。
最高の集中力とか、極限の緊張感とか「オリンピック」というものから逃げずに、ちゃんと背負うことができた。4年間作り上げてきたことを、全力でまっとうできたということが最高という意味なんです。