タイトルまであと一歩 原因は「2人の自分」
Q:2019年に久しぶりにKEIRINグランプリに出場し、そこで優勝して以来連続出場。グランプリへの慣れはありますか?
慣れはないです。残り日数が減っていくごとに「もっと練習したい、まだ足りない」と恐怖を感じます。
Q:2023年のG1では「あと一歩」という結果が多くありました。
タイトル獲得を強く望んでいるつもりではあるのですが、一方で「この年齢で走れてるじゃねえか、十分やってるよ」という気持ちもどこかであると思うんです。だからG1に届かなかったのかなと思っています。
この年齢でグランプリを走ったり、G1の表彰台に何度も乗るようなことは若い時にイメージしていなかったことです。安心感、達成感が多少あるのかな。それを払拭したい、無くしたいと思っています。
Q:天使と悪魔がいて、悪魔の方が「お前は十分やってる!」と囁いてくる感じですね。
そうですね。でも、ある意味必要なことではあると思います。体は衰えていて、疲れが取れにくくなっています。その中で無理をさせない、体を壊さないために「お前は良くやっている」と抑える自分がいるんだと思います。その一方で「いや、優勝したいんじゃないのか」と言う自分もいる。
これはどちらが優位に立つべきか、難しいところです。本当にタイトルだけが欲しいのなら「抑える自分」は必要ないけれど、体を壊してしまったら元も子もない。バランスが難しいですね。
Q:「ここまでやったらヤバいな」というラインは年齢に応じて変わると思いますが、それは見えているものでしょうか?
失敗を繰り返しながらデータを積み重ねる感じですね。レースに向けて仕上げていくにあたって「自分を過信しない」ということが重要なんだなと思います。そういう意味では「抑える自分」「やらせる自分」の2人が必要でしょうね。
キャサリン「もうやめなさい」
ボブ「まだまだいけるぞ、こんなもんじゃないんだぞ俺は」
キャサリン「あなたもう47歳なのよ」
という2人(笑)自分でももちろんやっているけれど、妻がこの役を担ってくれてる部分もあるので、ありがたいことです。
Q:ご家族は佐藤選手の年齢とか引退時期とか、そういうことは何か言われますか?
特に言われませんね。自分としては50歳までは死ぬ気でやるつもりで、それは家族にも伝えています。「明日死んでもいい」って気持ちで50歳まではやりますよ。
グランプリに向けて
Q:今はグランプリに向けた練習中でしょうか?
グランプリだけを意識した練習、という感じではありません。来年に向けてやっていく中で、その途中にグランプリがあるイメージです。意識して「意識しない」ようにしないと、グランプリは気持ちが入りすぎてしまいます。それがないように気をつけています。
正直、考えなくても入っちゃいますね。「あと20日しかない!」と考えてしまうくらいだから。なので普通で良いんだと思っています。
Q:KEIRINグランプリ2023には同じ北日本として新山響平選手が出場します。
何回も連携実績がありますし、今年走りを確立させた選手の1人だと思います。彼にしかできない走りがありますよね。プロフェッショナルだと感じています。その走りに応えないといけないなと思います。
Q:突っ張って欲しい?
突っ張って欲しく……ないですねえ(笑)響平の後ろってどんどん脚が削られていくんですよ。響平と同じ速度で消耗していくんですから。
本当のことを言うと、響平の後ろは苦しい、試練の位置です。ただ有利なところにいける可能性は高い位置ですね。問題はいざというタイミングでどれだけ自分の脚がロスしてるのか、という部分です。ヤバいんです、あいつの後ろ。
Q:でしょうね(笑)
もっと太ってくれたり、体が大きくなってくれたらいいんですけれど、細いし前のめりで乗っているし。後ろにいても風を全部受ける感じです。キツいわぁ……
「先行兼番手」の大仕事
「目標選手(前を走る選手)がいるんだけど、いない」みたいな状況です。自分が先行しているような感じですよ。
Q:さらに、番手としての仕事もしなければいけない。
大変です、すごく!すごく大変なので、そういう場合を想定したトレーニングも必要となってきます。
響平は800mをもがき切っちゃうし、だからと言ってダッシュが緩いわけでもない。(後ろにつく側として)出だしでちょっと削られるのに、そこから800mですよ。最悪です(笑)
だから、ダッシュの強化が必要。そしてその後のトップスピード、航続距離も響平と同じくらいのものがないと、番手できっちり仕事をすることができません。
Q:連携する……というのも大変ですね。
そうですね。でもこれからの競輪では、2番手・3番手の選手もそれくらいの責任を持ってトレーニングをしていかなくてはいけません。
競輪はいろんな潮流を経た結果、今のようなスタイルになっています。今は「追い込み屋がいなくてもレースが成立する」ような競輪ですよね。だからこそ追い込み屋として、存在感を示していけたらいいなと思っています。
Q:示しまくっているのではないでしょうか。
そうですかね?でも自力選手にレースを支配されている実感がありますよ。難しいところだなと思います。
連携する自力選手があってこそ、追い込み選手の持ち味が発揮できます。これが逆に「追い込み選手がいるおかげで、自分たちが力を発揮できるんだよな」という状況がもうちょっと増えたらいいなと思います。今は「ひとりでも問題無い」という感じですから。もう少し頑張っていきたいですよね。
とにかく体力が必要な令和の競輪
Q:ブロック、牽制する時、何か意識していることはありますか?
やっぱり事故が起きないようにすること。「相手を落としても良い」なんてことはなく、ルールの中で自分の仕事をするのがプロフェッショナルだと思ってます。その辺りの加減は大事にしてますね。
これがきっちり止められるまくりなのか、それともこれに当たったら落車してしまうのか、あるいはどれだけやっても止められないスピードなのか。スピード差をきちんと見極めます。そして無茶な動きにはならないようにしますね。
Q:古性優作選手は「当たると同時に相手のスピードをもらう」という話をしていたんですが、そういったことは考えますか?
上手い人は上手くタイミングを取って、相手のスピードをもらえるんですよ。相手が前にいる時に当たってもスピードをもらうことはできないから、相手が自分より後ろにいる時に上手く当てる。当てて押してもらう感じ。それがもちろん理想ですね。
Q:やっぱり難しい技術でしょうか?
後ろからくる選手にスピードを合わせつつやるわけですから、タテに踏むスピードがないとできません。ただ後ろについていくだけの選手にはできないことです。
Q:全体として、体力が求められるレースになっていますね。
なってますね。タテに踏まないことには勝負にならない、そういう競輪ですね。
昔は先行選手がタレてくる(終盤でスピードが落ちる)から、追い込み選手が楽だったんです。まくってくる選手も、昔はそんなに伸びていかない。前がタレてたから伸びるように見えていただけです。
でも今は前もタレず、後ろも伸びていくんです。