「競輪選手になって一番」の充実感

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人生に求めるものは何?

Q:競輪選手として生きていて、自分がラッキーだなと思うことはありますか?

人と環境に恵まれていると思います。それが一番ですね。努力ももちろんしましたけど、努力できる環境があったから頑張れたし、努力の仕方を教えてくれた人もいました。頑張り方って、正直わからなかったです。

ドキュメンタリー番組を結構見ているのですが、世の中にはお金を貯めることすらできなかったり、2日に1度しかご飯が食べられないような人もいるわけで……日本人として生まれただけでラッキーだと思います。事件もあることはありますが、日本では考えられないような環境とは比べ物にならない。

Q:同年代の女性より稼げる仕事だと思います。そういうことを踏まえると、女性の進路の一つとして競輪選手はおすすめしたいと思いますか?

誇れる職業だとは思っています。これは他の職業でも同じだと思いますが、本気でやれば楽しさが違います。

競輪ならガールズグランプリを獲るとかタイトルを獲るとか、そういった目標に向けてやっていくとお金以外の楽しさが出てくると思います。クビにならない程度の頑張りでもある程度の賞金が出て、良い暮らしができるという楽しみもある。その人がどういう「楽しさ」を求めるかによると思います。

Q:では、例えば久米選手のファンの女性が競輪選手を目指しています。どんな言葉をかけますか?

頑張った分だけのお金がほしいのであれば迷わずお勧めします。でも「お金」というモチベーションだけだと長続きしないんじゃないかな。その子が人生において何を求めるかですよね。強くなってメディアに出て華やかな世界に近づきたいとか、ちやほやされたいとか。そういうのが好きならそれもそれでアリだと思うし。

Q:では久米選手のモチベーションは何でしょう?

ただこの生活が楽しいんです。好きな仕事をして、好きな生活をして。それだけです。

競輪がめちゃくちゃ好きというよりは、その過程が好きなんだと思います。もし私の父親(元選手で現養成所教官の久米康徳氏)が別のスポーツをしていたら、そのスポーツでもきっと楽しんでいたと思います。自分の目標に向かって成長していく過程が好きなんです。

Q:レベルアップしている自分を実感したい、そういう環境が好き、ということですか?

たぶんそうです。

Q:お父さんの話が出たので、聞かせていただきます。すごく仲が良い印象ですが、どうしてそんなに仲が良いのですか?

もともと仲良くなかったんです。高3くらいまで反抗期で、真顔だし無口だし返事も愛想もなかったです。競輪を始めてから、共通の話題ができるようになってから仲良くなった、ですね。

Q:競輪が親子の愛を……

そういうことですね、良い感じに言うと(笑)

大学のオープンキャンパスで感じた「ここじゃない」

Q:お父さんの影響と言いますが、「じゃあ私も」となるにはまたひとつハードルがあると思うんです。

自分の「したいこと」がなかったのもあると思います。高校3年生の頃、この先の進路をどうする?と考えたときは競輪選手という道は全然現実味がありませんでした。

指定校推薦が使えたので大学進学自体はできたのですが、神奈川の大学なのでいっぺん見ておかないとな、と思って父と2人でオープンキャンパスに行ったんです。

そこで「ヤバい、違う」となって。

女子大生が歩いてるのを見て「ここは私の居場所じゃない」と思っちゃったんですよね(笑)

Q:その「居場所じゃない」感はどういうところからでしょう?

みんな茶髪で、アナウンサーみたいな人しかいなかったんです。おしゃれな女の子たちが並んでて、同じような格好をしていて「私絶対ここで浮く、馴染めない」と思いました。

加えて、それまで全然興味もなかったはずなのですが、どこか頭の端っこに「競輪選手」というものを持っていた気がします。願書の締め切り2週間前に競輪選手の道に進もうと決めました。

Q:競輪選手の世界に入ってみて「居場所じゃない」と感じたりしませんか?

居心地は良いです。職人って感じですよね。

Q:古性優作選手が同じこと言ってましたよ。

やった!嬉しい!

古性優作

正解がないのが良いですよね。正解があったら、その次どうすればいいかわかんなくなってしまう。ずっと未完成のままが良いなって思います。

Q:ではそうなると、引退のタイミングってどうなんでしょう?

そこなんですよね(笑)たぶん、今の自分の生活より大事なものができたら辞めるんじゃないでしょうか。今のところなにも無いですけれど。なんだかんだ長くやりそうだなと思っています。

流れに乗るのが得意のレース

Q:印象に残ったレース、思い出に残ったレースはありますか?

今年はそういうレースが多かったです。なんだろ……松戸の決勝は悔しかったですね。でも勝ったレースの方が印象に残りやすいです。2023年はガールズコレクションとサマーナイトと2つのタイトルを獲れましたが、より嬉しかったのはコレクションの方でした。

Q:100勝のかかった取手のレース(1月)。あれは落ち込みましたか?

落ち込みました。賞金を忘れて帰りました。そして後で担当の方からいただきました。

Q:さすが日本ですね……って当たり前でしょうか。ところで久米選手の得意なレースは?と聞かれたらどのように答えますか?

それを探しています(笑)私はレースの流れに乗るタイプなので、先行が有利ならそうするし、捲りが良さそうならそうするし。そう思うと流れに乗るのが得意レースなんだと思います。

Q:久米選手は「知らないうちに前にいるな」って感じを受けます。

注目が集まってない時の方が得意ですね。しれっと位置取りができるので。

同じレースがひとつもない中、その時々のメンバーや展開に合わせることはデビューしてからずっとやってきたことです。展開を読むことは武器なのかなと思います。

Q:ガールズケイリンは最終バック(残り半周)から仕掛けることが多いです。一気に仕掛け始めてごちゃごちゃっとなった時に間をすり抜けていくことが多いですよね。あれは怖くないですか?

怖さはないです。挟まれるのは嫌ですが……3車並走で全員が同じスピードなら怖いですが、スピード差があると「ここ抜ければ行ける!」みたいな気持ちの方が勝ります。

Q:それが久米選手の頭のネジの飛んでいるところなんですね。

私はまともですよ!むしろもっとネジを飛ばさなきゃと思っているくらいです。この間、太田海也に聞いたら「最高速で******(文章自粛by編集部)」と言っていました。イカれています……でも違う角度で「どうやってあそこまでネジを飛ばせるのかな」とは思っています。

自分の脚質は何なのか?

Q:久米選手は自分の脚質はなんだと思っていますか?

その質問苦手なんですよね。どっちかわからないですもん。見ていてもわからないですよね?

Q:わからないんです。でもこれを「わかんない」のままにしたいのか、どこかに寄せていきたいのかでいうと、どうでしょう?

うーん、どちらも秀でているわけではないんですよね。なので底上げしていくのが一番かなと思います。たぶん体格でいえば中距離寄りだと思いますが、それが「誰が見てもわかる」レベルでもない。だから困っているのですが。

Q:中距離寄りというと、吉川美穂選手あたりと似てると感じることは?

それはあるかもしれないです!美穂さんは戦法的にも似てるかもしれません。でも最初から誰かの後ろを狙うということはなくて、流れ的に2番手3番手に……という感じ。

吉川美穂

ナショナルチームメンバーの負けパターンって、ナショナルの速さを封じるためにレース全体のスピードが上がりすぎて追いつけない、みたいなものが多いです。でも私はまだそのレベルには行けていないです。

ガールズグランプリへ

Q:ガールズグランプリ、もちろん優勝を狙っていると思います。それは前提として、今回の出場をどのように捉えていますか?

もちろん獲りたいとは思っています。でも目標としてそういうことを思うことは大事だと思うのですが、結局は瞬間瞬間を全力で生きて、その結果だと思います。勝ちたいけれど結局はやることをやった結果が出ます。勝ちたいと思って負けることなんていくらでもあるし、だから今、できることを全力でやっているところです。

Q:勝ったら何か変わりますか?

何も変わらない気がします。もしかしたら周りは変わるかもしれないです。でも周りの変化にはそんなに流されない……まあしんどい時はありますけどね。

初出場となるグランプリに向け、今出来ることを精一杯やっていく。久米詩の今シーズン最後のレース、その結末はどうなるのだろうか。ガールズグランプリ2023は12月29日に立川競輪場で開催される。

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