急成長をとげる女性ライダー 優勝候補のハナ・ロバーツが初日1位
マーティンが貫禄の勝利
オリンピックの正式種目となって以降、国内のBMX人気を支えてきた日本代表の中村輪夢19歳。世界からも絶賛されるジャンプの高さを武器に、数々の高難易度トリックを誕生させてきた。
BMXフリースタイル・パークにおいて、中村の武器でもあるジャンプの高さは絶対的有利に働く。
日々進化するBMXフリースタイルのトリックは、難易度を競う競技の特性上、ジャンプ中に1つの技を繰り出すスタイル重視のトリックから、何個も技を組み合わせていくコンボトリックが主流となってきている。
そうした中、中村のようにジャンプで高さを出せる選手は、空中の時間が長く、その間に複数のトリックを入れることができる強みを持っている。
その強みを活かし急成長をとげてきた中村。2019年にはワールドカップで初の金メダルに輝き、同時にシリーズチャンピオンにまで登りつめた。今や世界中のBMXライダーが知る存在だ。
迎えた母国開催で初のオリンピック。「メダルを獲得して多くの人にBMXの魅力を知ってもらいたい」という強い思いをもって大会に挑んだ中村。初日のシーディングランでは2位。幸先の良い滑り出しで決勝を迎えることになった。
シーディングラン結果
1位 | ローガン・マーティン | オーストラリア | 90.97 |
2位 | 中村輪夢 | 日本 | 87.67 |
3位 | ダニエル・デアース | ベネズエラ | 85.10 |
4位 | アントニー・ジャンジャン | フランス | 84.65 |
5位 | イレク・リザエフ | ROC | 81.25 |
6位 | ケネス ファビアン・テンシオ エスキベル | コスタリカ | 79.80 |
7位 | デクラン・ブルックス | イギリス | 76.75 |
8位 | ジャスティン・ダウエル | アメリカ | 75.20 |
9位 | ニック・ブルース | アメリカ | 3.80 |
決勝戦
決勝は女子同様、1分間のランを2回行い、良い点数が持ち点となるベストラン方式で行われた。
様々なトリックを磨き世界トップに登りつめてきたライダーたちにとって、世界中が注目する決勝の舞台は、自分だけにしかできないビッグトリックを披露する舞台でもある。
自らのスタイルを貫いた先に見える栄光のメダル。それをもぎ取るために、ライダーたちはリスクを背負って決勝に挑む。そして、次々と高得点を出していった。
中村の登場は9選手中8番目。高得点を叩き出す他のライダーたちからのプレッシャーを受けながら1回目のランをスタートさせた。
序盤から持ち前の高さのあるジャンプで、「360トリプルバースピン(横1回転しながらハンドルバーを3回転させる)」、「720テールウィップ(横2回転しながら自転車を1回転)」を繰り出し、スムーズにセクションをつないでいく。
しかし、中盤で出した「バースピンtoバックフリップテールウィップ」の着地で失敗。ペダルキャッチができず地面に足がついてしまう。
中村はその後もライディングは行うもののミスが響き、1回目の得点は72.20ポイントで暫定5位。2回目のランに望みを託す形となった。
最終走者はオーストラリアのローガン・マーティン。X-GAMES2連覇、世界選手権を2度も制しているフリースタイル界のスーパースターが、全選手の走りを見届けた後に圧巻の走りをみせる。
「トリプルテールウィップ(ジャンプ中に自転車のみを3回転させる)」を右回転、左回転と連続して行い、小さなセクションでは「ノーハンドフロントフリップ」。全てのセクションで難易度の高いトリックを決めていく。
ミスターパーフェクトの異名が付けられ、ビッグトリックをあたかも簡単そうに決めてしまう。そんな彼のスムーズなライディングが93.30ポイントという高得点を生んだ。
この結果、1回目を終えてマーティンが1位。中村は6位。
全てをかけた各選手の最終ラン。上位選手がさらに難易度と完成度をあげて得点を伸ばしていくものの、マーティンの得点には及ばなかった。
そして残すは2人となったところで中村の登場だ。張り詰めた緊張感の中、意地の走りで次々と難易度の高いトリックを決めていった中村。粘りの走りで最後まで大きなミスなく終えた。
しかし、得点は思うように伸びず、85.10ポイント。この結果、ローガン・マーティンの初代王者が確定した。
ウィニングランとして走った最終ランでは、自転車を身体から離し1回転させてキャッチする「バイクフリップ」を披露。まだまだ勝負の引き出しをもっていたマーティンが貫禄の勝利を見せた。
男子リザルト
1位 | ローガン・マーティン | オーストラリア | 93.30 |
2位 | ダニエル・デアース | ベネズエラ | 92.05 |
3位 | デクラン・ブルックス | イギリス | 90.80 |
5位 | 中村輪夢 | 日本 | 85.10 |
母国開催でメダルの期待がされた中村の最終順位は5位。金メダルを目標にしていた彼にとってはけして納得のいくものではなかっただろう。
それでも、画面越しにみつめた多くの日本人が、次々と繰り出される技の数々に興奮し、初めてみるこの競技に魅了されたことは間違いない。そして、多くのキッズライダーたちがこの舞台に大きな夢を抱くことになったはずだ。
Text : 継松彰宏
8月2日からの自転車競技は会場を静岡県・伊豆ベロドロームに移し、トラック競技がスタート。日本の競輪発祥の種目・ケイリンでの金メダルを目指す短距離勢や、現世界チャンピオン・梶原悠未の女子オムニアムをはじめとする中長距離勢。8月8日まで目が離せない毎日が続く。
なお、伊豆ベロドロームは数少ない有観客の会場。会場で観戦予定の方は、「声を出しての応援の禁止」「直行・直帰」などのガイドラインが公開されているため、事前にご確認を。
チケットホルダー向け新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン(Ver.1 2021年6月23日)